豆知識「スキーマ療法の種類②」
スキーマ療法には、スキーマ療法の中に登場する重要なポイントにあわせて3種類のやり方があります。
①オリジナル・アプローチ
②モード・アプローチ
③中核的感情欲求アプローチ
これらはそれぞれ①スキーマ ②モード ③中核的感情欲求 に注目したやり方になります。
今日はスキーマ療法をより短期間で負担少なく進めることのできる「モード・アプローチ」について説明します。
モードって何ですかっていう人は、この記事を見てください。
モード・アプローチ
モード・アプローチはクライアントの持っているモードに注目して、モードを改善させることで治療を目指す方法です。
大きく分けると「モードについて教育と発見をする段階」と「モードを変える段階」に分けられます。
「モード・アプローチ」は「オリジナル・アプローチ」と比較して大きな違いがあります。
スキーマ療法においては、成育歴は必ずしも治療上の最重要要素とは考えられていない。『スキーマ療法実践ガイド スキーマモード・アプローチ入門』p.20
「オリジナル・アプローチ」では幼少期から現在にかけてまでのトラウマの確認がスキーマを理解するために非常に重要視されていましたが、モード・アプローチを解説する『スキーマ療法実践ガイド』の中ではすでにそのやり方は積極的には採用されなくなっていることがわかります。
モードについて教育と発見をする段階
モードの教育と発見をする段階は次のようなステップで進んで行きます
①問題となっている人生や生活のパターンを発見する。
②①にモードが関係していることをセラピストが伝える。
③①に関連のありそうなモードから、各モードについて解説する。
④セラピストとクライアントと話し合いながら、どのモードを持っているか検討する。
⑤クライアントが持っているモードにクライアント自身に「名前」をつけてもらう。
⑥①‐⑤のすべてをあわせた概念図をつくる。
①問題となっている人生や生活のパターンを発見する
これは、要は「主訴」と呼ばれるものです。
主訴は「抑うつ」「過剰飲酒」「対人問題」「仕事が達成できない」などよくあるものです。
ポイントは、モードと関連付けて理解できるように主訴を理解すること。
だから「対人問題」という主訴はこれだけでは、モードが働いているのか判断できません。対人問題の中にはいろんなパターンがあるからです。
1)人と親密になりたいのに、怖くて避けてしまう
2)自分にとってよくないと思われる相手とばかり交際してしまうし、別れられない
3)人に対して暴力をふるってしまう
4)相手を見下してしまうせいで、人に好かれない
②①にモードが関係していることをセラピストが伝える。
③①に関連のありそうなモードから、各モードについて解説する。
④セラピストとクライアントと話し合いながら、どのモードを持っているか検討する。
①で聞き出した主訴にモードが関係してそうであることがわかったら、セラピストは「モード」そのものの説明をします。
そして、セラピストがあたりをつけたモードをクライアントと共有して、本当にそのモードを持っているのかどうか話し合います。
1)なら「回避防衛モード」
2)なら「服従モード」
3)なら「激怒するチャイルドモード」
4)なら「自己誇大化モード」
①の主訴をモードに関連付けて考えると、表面的にはこのようなモードが問題になっていることがわかります。
⑤クライアントが持っているモードにクライアント自身に「名前」をつけてもらう。
クライアントと②-④までの作業を合意しながら進めたら、クライアント自身でそれぞれのモードに名前を付けます。
1)「逃げちゃうまりん」
2)「服従するまりん」
3)「激怒するまりん」
4)「妄想力豊かなまりん」
こんな感じです。
私はあんまり発想力がないのでそのままですが、もっと個性的な名前をつける人もいるみたいです。
私が名付けたモードで一番個性的でしっくり来ているのは「人間関係リセットモード」です。
⑥①‐⑤のすべてをあわせた概念図をつくる。
話し合いをしていると、主訴になっているモードが実はそれだけで作られているわけではないことがわかることが多くあります。
例えば
1)「逃げちゃうまりん」はどうして逃げちゃうの?
→「怖いから」
→「怖がりまりん」もいるんだね
2)「服従するまりん」はどうして服従しちゃうの?
→「どうしたらいいかわからなくて、この人についていくしかないって思うから」
→「依存しちゃうまりん」「わからなくなっちゃうまりん」もいるんだね
3)「激怒するまりん」はどうしてそんなに怒っているの?暴力はなんで必要なの?
→「殴らないと殴られるから」
→自分を守るために殴るんだね。どうして自分を守る必要があるの?
→「忘れられないくらい嫌なことをされた」
→「トラウマをこわがるまりん」なんだね
4)「妄想力豊かなまりん」はどうして人を見下してしまうの?
→「わからない、気が付いたらしてしまっている、やめたい」
→やりたくないのに、してしまっている「コントロール不能まりん」もいるんだね
このように、話し合いを重ねていくことで、表面的に問題になっているモード以外にも、そのモードを作ってしまった別のモードがあることがわかります。
モードがモードを作って、別のモードに変化することを「フリップ」と呼びます。
概念図では、クライアントがもっているそれぞれのモードがどのようなフリップ関係にあるかを確認して、書き留めていきます。
具体的には、私が実際に治療場面で作った概念図(モード以外も書いてあります)を参考にしてください。
モードを変える段階
モードの名づけと概念図作成が終わったら、問題となっているモードの登場回数を減らして、ヘルシーなモードを増やすための治療を行います。
治療は3種類に分けられます。
①認知的技法
②感情焦点化技法(体験的技法)
③行動的技法(行動パターンの変容)
①認知的技法
認知的技法については「オリジナル・アプローチ」の記事で詳しく説明したのでそちらを参照してください。
②感情焦点化技法(体験的技法)
感情焦点化技法とは、クライアントが自分自身の感情を表出する技法です。
この技法では、クライアントが感情を体験して処理することで、自分自身の欲求や目的を理解し、【自分を大切に】できるように、【自分を価値あるものとして肯定】できるようになることを目指しています。
種類
1)イメージワーク:新たな感情のパターンを作り出す。
・イメージの書き換えワーク
→トラウマ的な記憶を安心で安全なポジティブなイメージに書き換える。
2)椅子による対話のワーク:異なるモードとモードで対話を行う。エンプティチェア。
→対話のなかでクライアントのモードが増えていくようなら、モードの数だけ椅子を増やすこともできる。
→グループスキーマ療法では、ヘルシーアダルトモードの椅子にたくさんの仲間が座って応援の声かけをすることもある。
③行動的技法(行動パターンの変容)
行動的技法は、クライアントが「これまで使ってきたコーピングモードとはことなるモード」をつかって新しい行動のパターンを作っていくことを目標としています。
この技法では、クライアントは自分自身の欲求をしっかりと受容して表現して満たす方法を学びます。
種類
1)ロールプレイ
2)ソーシャルスキルトレーニング
3)宿題への取り組み
4)リラクゼーション
5)習慣化
6)自分自身の欲求の言語化
これらは、ほとんど一般的な認知行動療法と変わりません。
スキーマ療法の「モード・アプローチ」特有の技法は、感情焦点化技法の「イメージの書き換え」や「椅子による対話のワーク」だと言えます。
次回は「中核的感情欲求アプローチ」について解説します。
「オリジナル・アプローチ」「モード・アプローチ」「中核的感情欲求アプローチ」のすべての説明が終わったら、それぞれのメリットデメリット分析をしたいと思っています。
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