豆知識「限界設定」

[限界設定]とは、スキーマ療法においてセラピストやクライアントが自分の限界を超えるようなことをしないことについてお互いにルールとして共有することです。

限界設定はスキーマ療法を成立させるうえで最も重要なルールです。

モードはクライアントの立場になる人だけが持っていると思われがちですが、豆知識の「モード」の記事で紹介したように、モードはあらゆる人、つまりセラピストも持っています。
クライアントの悪いモードが激しく活性化されると、それに応じてセラピストもモードが活性化されてしまうことがあります。
限界設定とは、セラピストの悪いモードが活性化されないようにするための予防的なルール、あるいは、セラピストの悪いモードが活性化されてしまったときにどう対応するかの事前準備として活躍します。

たとえば、男性のクライアントに女性のセラピストがついているとしましょう。
男性のクライアントには攻撃的なモードがあったとします。男性は日常生活のいろいろな場面で攻撃的なモードになり、ひどいときは暴行に至ることもあります。男性の攻撃的なモードはセラピストにも向くことがあります。
当然ですが、セラピストも人間なので人並みの脆弱さをもっています。目の前の男性が自分に攻撃性を向けてきたら怖いに決まっています。今すぐその場から逃げ去りたくなるでしょう。「脆弱なチャイルドモード」に入ったセラピストは実際に逃げることもできますし、恐怖を抑圧してクライアントに対応することもできます。しかし、恐怖心を抑圧し続けていると、セラピストの精神が壊れてしまうかもしれません。もっと前段階では、そのような恐怖空間で健全なカウンセリング行為が成立しません。
このような場合、セラピストは次のような限界設定を設けることができるかもしれません。

①「私が恐怖を感じたときは、あなたに正直に伝えるようにする。でも、それはあなたを拒絶するためではない、そのことをわかっておいてほしい」と事前に伝え、恐怖の抑圧へのコーピングを事前に共有しておく。
②「あなたが攻撃モードになって、それを指摘してもおさまらなかったら、私は部屋から出る。あなたはその間に私と作ったコーピングリストをみながらセリフコーピングをしてほしい。セルフコーピングで攻撃モードがおさまったら、部屋の外で待っている私を呼びに来て」と事前にルールを決めておく。

これは極端な例ですが、他にも、「セラピストと身体接触をしない」「セラピストと会うためにカウンセリングオフィスに無理やり入り浸らない」「時間外にセラピストに過剰にメールや電話をしない(海外では時間外相談を実施しているところもある)」などがあります。


私の運営している「ピアスキーマ療法LINEグループ」にももちろん限界設定があります。

①私たちはピアだからメンバーと助け合うのであり、ピアではないグループの人をグループが助けることはない。
②私たちは個々人の生活を犠牲にしてはならない。
③ピアグループのメンバー同士は個人間の相談を禁止する。偶発的に生じた場合は必ずグループに事後報告をする。
④可能な限り、メンバーに専門機関を勧める。

今はまだグループの限界設定として明文化されていませんが、常にこのような声かけを行っています。
私たちはセラピストのいない当事者集団です。訓練もされていません。限界設定がなければ簡単にスキーマモードサイクルのパターンにはまって悪循環を繰り返してしまいます。
それを避けるために、私たちは自分たちがあくまでも「ピア」であることを強く意識するようにしています。
また、私たちはセラピストではないので大きすぎる問題を扱うことはできません。警察や救急が関わるレベルのメンバーには専門機関にかかるように勧めます。そのための作戦はみんなで考えます。
個人間で連絡をとりあう方がグループに投稿するよりも気が楽で、つい個人間相談をしてしまうメンバーもいます。私もその一人でした。「このくらいならお互いスキーマ療法やってるし大丈夫」というのを繰り返すうちに、相談事は二人だけでは解決しきれないほど大きく膨れ上がってしまいます。そうなると、グループの知らないところで何かが起こって知らうないうちにメンバーがいなくなっていたり、大きくなった状態の問題を突然グループに持ち込まれたりします。私が過去にしました。当然、ピアはセラピストではないので、急に大きな問題を持ち込まれても対処できません。私が持ち込んだ問題では、自殺者がでました。グループのメンバーではありません。ピアグループのメンバー以外を救おうとして、救おうとしていた人が結果的に自殺しました。その結果、グループのメンバーは初めての人の死に触れて混乱状態になり、一時的に機能が停止し、数名のメンバーが退会しました。しばらく顔を出せなくなったメンバーもいます。それ以降、私のピアグループでは以上のような限界設定を強く押し出すようにしました。

プロのセラピストでさえ必要な限界設定。
ピアグループの私たちにはなおさら重要なものになります。

限界設定の中身はケースバイケースですが、

限界設定のないピアグループはスキーマ療法のグループに限らず、そのうち壊滅すると思います。


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発達障害者まりんのスキーマ療法体験記
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