豆知識「スキーマ療法の種類③」
スキーマ療法には、スキーマ療法の中に登場する重要なポイントにあわせて3種類のやり方があります。
①オリジナル・アプローチ
②モード・アプローチ
③中核的感情欲求アプローチ
これらはそれぞれ①スキーマ ②モード ③中核的感情欲求 に注目したやり方になります。
今日はスキーマ療法の中でも少数派で研究段階にある(ある意味最先端の)「中核的感情欲求・アプローチ」について説明します。
中核的感情欲求って何ですかっていう人は、この記事を見てください。
中核的感情欲求・アプローチ
まず、「中核的感情欲求・アプローチ」は現在最先端で研究されている最中のものであることに注意してください。
これまでのオリジナルアプローチやモード・アプローチはスキーマ療法の中でかなり活用されてきたやり方なのである程度決まった進め方がありますが、「中核的感情欲求・アプローチ」にはそれがありません。
また、中核的感情欲求アプローチを研究している人たちも、スキーマ療法がこの方法だけで完結できるとは考えていません。
「中核的感情欲求にもちゃんと注目しよう」という意識づけのような感じです。
この記事で説明できるのは、なぜスキーマ療法が、(もともと中核的感情欲求を大事にしているのにさらに)わざわざ「中核的感情欲求アプローチ」という名前を付けてまでそこに注目しようとしたのかです。
詳しい技法は他のアプローチと変わらなかったり、まだ開発されていなかったりです。
中核的感情欲求アプローチの考え方
このアプローチでは、中核的感情欲求を満たすモードとして「母親モード」と「父親モード」というモードについて注目します。
母親モードは自分自身やクライアントの小さな子供(内なる子ども)と「つながること」「相互に共感すること」「応答的にかかわり続けること」をするモードです。
つまり、母親モードは内なる子供に対し、愛情をもって慈しみ愛し共感し助けかかわり世話をするモードです。
それに対して、父親モードは内なる子供の自他の境界を育て、分離と自立を促すモードです。
これはあくまでもモードの話なので、実際の母親がこういう性質であるとか、実際の父親がこういう性質であるとか、そういう話ではありません。
実際には、母親も父親もどちらもがふたつのモードを備えていることもあるし、母親が父親モードを、父親が母親モードを備えていることもあるし、2人ともどちらのモードも持っていないこともあるでしょう。
大事なポイントは、「つながり」を意識する母親モードと「分離と自立」を意識する父親モードと、そのどちらもが内なる子ども/小さな子どもの中核的感情欲求をみたすのに必要なモードであるということです。
中核的感情欲求にはなにが当てはまるのか、ということは現在議論が割れています。
しかし、古典的な中核的感情欲求の分け方をするなら、だいたい5つの領域に分かれます。
①愛してもらいたい。守ってもらいたい。理解してもらいたい。
②有能な人間になりたい。いろんなことがうまくできるようになりたい。
③自分の感情や思いを自由に表現したい。自分の意志を大切にしたい。
④自由にのびのびと動きたい。楽しく遊びたい。生き生きと楽しみたい。
⑤自律性のある人間になりたい。ある程度自分をコントロールできるようになりたい。
これらの代表的な中核的感情欲求は、早期不適応的スキーマの5つの領域と合わさっています。
つまり、これらの中核的感情欲求がみたされないと、それに該当する領域の早期不適応的スキーマが形成されるという仕組みです。
(ここから先は私の分析と見解です)
この一覧を見てみると、①は明らかに母親モードが関連する中核的感情欲求なのがわかると思います。
母親モードはこの「愛してもらいたい」「守ってもらいたい」「理解してもらいたい」を満たすモードです。
逆に⑤は明らかに父親モードが関連する中核的感情欲求だとわかります。
父親モードは「自律性のある人間になりたい」「ある程度自分をコントロールできるようになりたい」という中核的感情欲求を満たすためのモードです。
そして、②③④の欲求は、①と⑤の中核的感情欲求がバランスよく満たされているときに満たされる中核的感情欲求だと考えられます。
例えば、②についてですが、ある程度の自律性と自己コントロール能力がなければ、「有能な人間」になることはできません。けれども、同時に「自分は大丈夫だ」と思えるほど自分に自信がなければ自分を「有能」だとは思えません。
「自分は大丈夫」という自信は①の中核的感情欲求が満たされることで生まれる感覚だと思います。
③の「自己表現」な「自分の意志」というのも、①の欲求が満たされていて「自分は大切にされている」という感覚があって初めて、表現したくなる何かを持てるようになる気がします。「自分に価値がない」と思っている人は自己表現は自分の欠点をさらすことになる気がしてしまってできないのではないでしょうか。
逆に、⑤の自律と分離が全くできていないと、そもそも「自分の意見」「自分の感情」というものが自分でもよくわからない状態になってしまいます。過保護に育てすぎて①ばかりを満たしていったけれど、⑤がまたくなかったとき、その子供は親と自分が分離したものだと考えられず、親の欲求が自分の欲求だと勘違いしてしまうことがあるかもしれません。
③の「自己表現」「自分の意志」は①と⑤がバランスよく満たされていることではじめて満たせる欲求だと考えられます。
④も同じです。④は「自由」「楽しい」「いきいき」がキーワードです。これは⑤ばかりを満たしすぎてしまうと満たされない中核的感情欲求だと思います。
自律することや自己コントロールすることばかりに注目してしまうと、息が詰まって「自由」というものがわからなくなります。
①の「愛される」「守られる」「理解される」が満たされていれば、自由というものや自分の楽しいことがわかるかもしれませんが、①が満たされていないと、何が楽しいことなのかを学ぶ機会がありません。
このように、母親モードは①、父親モードは⑤の中核的感情欲求を満たすモードであり、その他の中核的感情欲求は①と⑤がほどよく満たされているときに満たされる中核的感情欲求であると考えられます。
(ここからまた解説に戻ります)
しかし、現在のセラピストやクライアントはどうやら父親モードを強く持っていて、自律や分離を称賛して、「つながり」といった依存につながりそうなものを避ける傾向があります。
けれども、先ほど解説したように、子どもの中核的感情欲求を満たすには母親モードと父親モードのどちらものモードが不可欠です。
どちらかがかけていては中核的感情欲求はほとんど満たすことができず、早期不適応的スキーマがたくさん作られてしまいます。
「依存をやめたい」と思うクライアントや「共依存をさけたい」と思うセラピストは実際に多いと思います。
しかし、スキーマ療法の中核的感情欲求アプローチは「依存こそ重要な中核的感情欲求である」と考えます。
子どもは生まれた瞬間、親というものに完全に依存します。依存無しで生きていけません。
それと同じように、クライアントもはじめは完全に「依存」するのです。
依存しながら、①の「愛されたい」「守られたい」「理解されたい」という中核的感情欲求を満たした行きます。
そうすることで、はじめて、クライアントはセラピストを「信頼」します。
信頼関係が出来上がったら、⑤の父親モードで自律を促します。
現代では、父親モードが強化されすぎて「依存している自分はダメだ」「自律しなければ」という意識が強まりすぎています。(要求的なペアレントモードや懲罰的ペアレントモード)
父親モードが強化されすぎている状況でまっさきに求められるのは母親モードです。
依存の心配をして信頼関係が作れなかったら本末転倒です。
依存の問題は信頼関係ができてから対処すればいいのです。
ただでさえ、父親モードが強すぎて「依存」どころか「全く人に頼れない」状態になているのですから、まずは思いっきり「頼っていい」ということを「頼りたい」「守られたい」という中核的感情欲求を満たすことが大切になるはずです。
スキーマ療法の中核的感情欲求・アプローチは、このように、クランアントとセラピストが治療を進めるうえで絶対に必要な「信頼関係」を作るために母親モードに注目した方法だと考えていいと思います。
ここまでで、スキーマ療法の「オリジナル・アプローチ」「モード・アプローチ」「中核的感情欲求・アプローチ」の解説を終えました。
次回はそれぞれのやり方のメリットデメリットを分析してみたいと思います。