豆知識「いただけない対処モード」

「いただけない対処モード」という言葉について。


私は「いただけない対処モード」という言葉を好まない。理由は、モードの成立経緯にかかわる。

そもそも、不適応的なモードというのは、そのモードがないと生きていけないような環境にいるときに、その環境に適応するために生まれた。だから、(懲罰的ペアレントモードを除く)すべてのモードは、これまで生きてくるの必要で役に立っていたモード。

だからこそ、スキーマ療法の中では人があるモードに入っていても、そのモードを否定することはしない。まず、なぜそのモードになっているのか、中核的感情欲求を探って、そのモードになってしった原因の「満たされていない中核的感情欲求」を満たすことから始まる。中核的感情欲求を満たすことなしに、不適応的なモードを改善することはできない。

しかも、これは、今現在の状態が「それらのモードがなくても生きていける状態/環境」であることが前提となっている。


逆に言えば、大人になっていてもそれらのモードがないと生きていけない人もいる。不適応的モードではなく、今もまだ「適応的モード」であることもある。

「いただけない対処モード」は正しくは「非機能的コーピングモード」と呼ばれている。それを日本のスキーマ療法の第一人者が入門書の中でわかりやすくしようとして「いただけない対処モード」という名づけをした。けれど、「コーピングモード」というのは、ある問題的な状況でなんらかの対処をするためのモードであり、それが「服従」や「回避」などのモードになる。今もなお暴力を受ける可能性のある状況にいるなら「服従モード」は「いただけない」でもないし、「非機能的」でもない。むしろ「適応的」だと思う。

コーピングモードは実際の状況だけでなく、自分の心理状態へのコーピング(対処)でもあるから、自分の心理状態が危険なのだとしたら、その心理状態から「回避防衛」するのは「適応的なモード」だと考えるのが妥当だと思う。でなければ、守られるべき、逃げるべき、避けるべき危険な心理状態の人の「コーピング」がすべて「いただけない」ものになってしまう。

そしたらどうなろうだろう。

その人はなすすべなく、何も対処できず、自分の危険な心理状態をあらわにする、その心理状態の影響をモロに受け続けるしかなくなる。それはまったく治療的でない。

グッドペアレントなら、「つらいときは逃げていい」と言うと思う。


私は、スキーマ療法をしているすべての仲間たちのグッドペアレントとして「いただけない対処モード」という言葉遣いには、否定の姿勢を取るし、「非機能的コーピングモード」という表記の仕方にも否定の姿勢を取る。ただの「コーピングモード」でいい。それが「非機能的」か「いただけない」か、そういうことは教科書的なものに書くべきではないと思う。非機能的か、いただけないか、そういうことは一旦「コーピングモード」として受け止めたあとに、本人との対話の中で決めていけばいいと思う。

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