『グループスキーマ療法』書評
想定読者層
・かなりまとまった固い文章を読むことができる人。
・グループ療法、グループカウンセリング、当事者会などの運営者
・グループ療法、グループカウンセリング、当事者会などに参加する当事者
・ピアグループでスキーマ療法に取り組もうとする人すべて。
・なんらかのピアサポートに関わっている人すべて。
・スキーマ療法のモードーアプローチに興味のある人。
・スキーマ療法のセラピストを目指す人。
・スキーマ療法を研究対象にしようとする人。
・境界性人格障害に関心のある人。
書籍情報
グループスキーマ療法―グループを家族に見立てる治療的再養育法実践ガイド https://www.amazon.co.jp/dp/4772415289/ref=cm_sw_r_cp_api_i_VKIdEbDBZPBXS
ジョアン・M・ファレル,イダ・A・ショー,2016『グループスキーマ療法』伊藤絵美 監訳,大島郁葉 訳,金剛出版,480ページ
6200円+税
全体評価
オススメ度 ★★★★★
読みやすさ ★★★☆☆
専門性 ★★★★★
日本のスキーマ療法の第一人者の伊藤絵美が「スキーマ療法をやるセラピストが絶対に読むべき3冊」に入れている本の最後(最新)の1冊。残りの2冊は未紹介のヤング『スキーマ療法』と前回記事で紹介した『スキーマ療法実践ガイド』である。
個人的には、ヤング『スキーマ療法』は情報が古すぎるので、すでにバイブルとは呼べないのではないかと考えている。部分的に非常に専門的で重要な箇所があるので必読なのは確かだが、通読しなくてもよいと思う。したがって、このnoteでもヤング『スキーマ療法』の紹介は後回しにしている。(本当は引っ越したときにどのダンボールに入れたか分からなくなっただけ)
『グループスキーマ療法』は私が最もオススメするスキーマ療法の本である。それは、4つの理由がある。
①いま日本にあるスキーマ療法の本の中で唯一「グループスキーマ療法」を扱っている
②主要な事例が「境界性人格障害」のグループのみである
③不適応スキーマに対するハッピースキーマの提唱と定義を行っている
④非常に実践的で痒いところに手の届くリアリティがある
私は、金銭的地理的ハードルの高いスキーマ療法を実践する方法は、無理をしてでもスキーマ療法のできる心理士のいる病院に行くか、「ピアサポートグループ」でスキーマ療法に取り組むかの2つしかないと考えている。グループではなく1人でセルフスキーマ療法をすることは理論的には可能だが、実際的には不可能に等しいと思う。その点については、今後の書評でセルフスキーマ療法向けのテキストを紹介するときに詳細に述べる。
『グループスキーマ療法』は無理せずピアサポートグループでスキーマ療法に取り組む際に、運営者も参加者も参考になる事例やエッセンスがたくさん詰まっている。そういう意味で、日本でスキーマ療法に取り組みたい人はにとって、『グループスキーマ療法』こそが真のバイブルだと言える(と私は言いたい)。
本の目次と読書ガイド
監訳者まえがき
序文
著者について
謝辞
本書の前書きでは、グループスキーマ療法が個人スキーマ療法とどのように異なるのかについてまず述べられる。そして、グループスキーマ療法が他と比較していかに魅力的な療法であるかが、簡潔かつ具体的に述べられている。この前書きを読んだだけで、本書に引き込まれてしまうほどである。序文は、前書きに比べるとややかたい文章で読みにくいが、それなりにグループスキーマ療法の魅力と本書に登場する二人のセラピスト(著者)たちのセラピストとしての特徴が述べられている。「著者について」と「謝辞」は研究者でもない限り読む必要はないだろう。
第1章 イントロダクション
1-1 スキーマ療法の柔軟性を活かしたマニュアル作成へのチャレンジ
1-2 本書の各章について
イントロダクションでは、グループスキーマ療法がどのようなステップで治療を進めていくか簡潔に述べられている。短い文章なので、全体像をつかみたい人は読んでおくとよい。各章の説明については読まなくても各章を読めばわかるので読まなくていい。
第2章 グループスキーマ療法の概念モデル
2-1 グループスキーマ療法の目標
2-2 スキーマ療法における治療関係
2-3 グループスキーマ療法の構造化モデル
全員必読。グループスキーマ療法に先立って本書発行時点での最新のスキーマ療法の解説がある。このnoteで紹介した過去の書籍の中でも最もわかりやすい説明だと思われる。また、スキーマ療法における「モード」や「スキーマ」が境界性人格障害の人たちにどのように影響を与え、生活の中の症状としてどのように表現されるかを一覧で説明しているところも、境界性人格障害に興味のある人にとって必読である。また、前回紹介した『スキーマ療法実践ガイド』ほど明確な語り口ではないが、それぞれのモードへの治療スタンスが述べられている部分でもあり、必読。
第3章 スキーマ療法の介入の媒介·効果増大のためにグループの治療的要因を活用する
3-1 グループ様式はスキーマ療法の作用を媒介·増大させうる
3-2 スキーマ療法の介入を増強するためにグループの治療的要因を利用する
3-3 体験的ワーク, 認知的ワーク,行動的ワーク(行動バターンの変容)の機会を増やす
全員必読。グループで心理療法を行うということのメリットが凝縮され、わかりやすく項目ごとに分けて解説されている。もちろん、グループスキーマ療法についての解説だが、この章はグループ療法やピアサポートグループ、など様々なグループ運営に応用できるメリットが多い。
第4章 セラピストの役割一治療的再養育法を家族にまで拡大する
4-1 グループにおけるセラピストのあり方
4-2 個人スキーマ療法およびグループスキーマ療法における治療的再養育法
4-3 BPD グループを養育するには何名のセラピストが必要か
4-4 グループでの対人関係を促進させるためにセラピストはどう振る舞うか
4-5 グループを「家族」とするためにセラピストはどう振る舞うか
4-6 安全なグループを構築·維持するためにセラピストはどう振る舞うか
4-7 当事者のモードがグループを脅かすときセラピストはどう振る舞うか
4-8 モードや欲求の葛藤による反応に対してセラピストはどう振る舞うか
4-9 当事者の自己開示を促してグループに巻き込んでいく
4-10 グループ療法のセラピストは 「手品師」 となるべきである
4-11 グループをマネジメントするときのポイント
4-12 セラピストが「ヘルシーアダルトモード」のモデルとなる
ピアスキーマ療法を実践する人は全員必読。ピアスキーマ療法では参加者全員がセラピストの役割とクライアントの役割を同時にこなすことになる。この章では、グループスキーマ療法を行うにあたってのセラピストの基本姿勢から、グループの参加者同士の喧嘩、グループ全体の崩壊の危機、セラピストがクライアントに脅かされた時などの対処法がたくさんの事例とともに書かれている。これらの事例と対処を学ぶことは、ピアスキーマ療法でセラピストの役割をする以上に、自分自身に「対処法は分かっている」という安心感を与えるのに役立つと思う。この安心感があるかないかで、ピアスキーマ療法のグループになんらかの危機が訪れたときの自分のダメージの度合いがかなり変わるので、この章はよく読んでほしい。
第5章 グループスキーマ療法の基本的な進め方
5-1 GST の基本原則
5-2 GST の各段階
5-3 グループ療法において諸技法を統合する
基本的には、プロのセラピストを目指す人やスキーマ療法を研究する人が読めばいい。ただし、ピアスキーマ療法に参加している人は、p165のグループスキーマ療法の段階の表とp189の「機会を捉えたワーク」についての解説は必読。ピアスキーマ療法ではグループスキーマ療法の段階表の1と2を常に同時に行っていること、また、ほとんど全てが「機会を捉えたワーク」であり、「計画的なワーク」はほんのごくわずかにしか行われていないかそもそも行っていないかのどちらかであると思いながら読んでほしい。
第6章 グループスキーマ療法の流れ [第1段階]ー絆と感情調節の段階
6-1 絆と凝集性
全員必読。この章ではグループスキーマ療法の第1段階をクリアするためのさまざまなワークや事例やセラピスト向けのアドバイス集が提示される。ピアスキーマ療法では、全員がセラピストになる必要があり、また、個人で行うセルフスキーマ療法では自分で自分のセラピストにならなければならない。そんなときに、うまくいかないことが多々あるのだが、この章にはそのうまくいかなさを実際のセラピストたちも経験していることが書かれていて、これからのセラピストたちのガイドになるようなワークやアドバイスを豊富に盛り込まれている。
第7章 グループスキーマ療法の流れ[第2段階]ースキーマモードを変容させる
7-1 不適応的なコーピングモード
7-2 スキーマ療法のワークを通じて治療の諸要素(気づき、体験,認知,行動)を統合する
7-3 「脆弱なチャイルドモード」について
7-4 非機能的ペアレントモード
7-5 ヘルシーアダルトモード
全員必読。基本的には前章と同様に第2段階をクリアするためのさまざまなワークやアドバイスが事例とともに紹介される。ここでは、「治療的再養育法」「体験的技法」「感情焦点化技法」「認知的技法」「行動パターンの変容」などの手法を、ターゲットとなるモードごとにあわせて紹介されていく。どれも面白いワークで実際に試したくなるものが多い。この章ではp264で紹介される「代理学習」が重要な概念なので、読むことをお勧めします。
第8章 グループスキーマ療法の流れ[第3段階]ー自律性の獲得
8-1 「ヘルシーアダルトモード」を育てる|モード変容ワーク,行動バターンの変容ワーク、
アイデンティティの安定化について
8-2 思春期
8-3 グループがもたらすアイデンティティに関する修正体験
8-4 BPD 当事者のためのサポートグループについて
必読。この章は前章、前々章より分量も少なく情報も少ない。事例やワークやアドバイスが豊富であることに変わりはない。特徴的なのは、ほとんどのワークが「自分のポジティブな面」を発見するためのものてあるという点だ。これはスキーマ療法を卒業するにあたって重要で、自分がこれまでのワークで何を身につけてきたのか、どんなサポート資源やコーピングを持っているのかの確認作業である。これは個人療法でもグループ療法でもピアでもかわらない。
第9章当事者用ワークブックの内容と使用法
まるで『当事者用ワークブック』が存在しているかのように章立てされているが、このグループスキーマ療法』の事例の中で使用されている当事者ワークブックは日本語では存在しない。目次しかないので読んでもそんなに意味がない気がするので私は読み飛ばした。
第10章 個人スキーマ療法とグループスキーマ療法の組み合わせ
10-1 治療プロトコル
10-2 個人ST およびGST のセラピスト
10-3 セラピストの訓練
10-4 個人ST のセッション
10-5 個人ST とGST をどのように組み合わせるか
10-6 個人 ST とGST の組み合わせに潜在する問題
10-7 合同スーパービジョンとピア·スーパービジョン
セラピストを目指す人以外は基本的に読まなくていい。ただし、ピアスキーマ療法をやっている人で、個人的にも親しいメンバーがいる人は、グループスキーマ療法と個人スキーマ療法の併用と同じ構図になるため、念のために読んでおくと良い。
第11章 グループスキーマ療法の治療的再養育法を通じて中核的感情欲求を満たす
11-1 社会的所属スキーマ
11-2 安定したアタッチメントスキーマ
11-3 情緒的充足スキーマ
11-4 基本的信頼スキーマ
11-5 成功スキーマ
11-6 自己承認/愛される自己スキーマ
11-7 健全な境界/発達した自己スキーマ
11-8 有能/自己信頼スキーマ
11-9 自己主張/自己表出スキーマ
11-10 他者への共感的配慮/他者尊重スキーマ
11-11 健全な自制/自律スキーマ
11-12 楽観/希望スキーマ
11-13 現実的な基準と期待スキーマ
11-14 自己への健全な関心/セルフケアスキーマ
11-15 本章のまとめ
全員必読。本書は非常に魅力的でどの章も重要だが、この章が私が日常生活で最も活用している章である。この章には、早期不適応スキーマの対になるハッピースキーマの一覧が掲載されている。さらに、個々のハッピースキーマの身に着け方の解説が各項目で行われる。スキーマ療法の最終的な目標は不適応スキーマを減らすことだけでなく、このハッピースキーマを増やすことである。したがって、ヘルシーなモードが増えてきた人たちはモニタリングの中に不適応スキーマだけでなくこれらのハッピースキーマを登場させることを推奨する。サポート資源やコーピングの増加につながると思う。
第12章 境界性パーソナリティ障害に対するスキーマ療法の系統的レビュー
12-1 外来でのスキーマ療法の臨床試験
12-2 入院環境でのスキーマ療法
12-3 結論
境界性パーソナリティ障害を専門にするタイプの研究者以外は読まなくていい。基本的に統計の話。
第13章 結論とグループスキーマ療法の今後の展望
13-1 BPD 以外のパーソナリティ障害の治療にGST を活用する
13-2 すべてのパーソナリティ障害に対するGST の適用可能性
13-3 「ヘルシーアダルトモード」の役割
13-4 重症BPD 当事者に対する集中的なGST
13-5 結論
グループスキーマ療法を様々なパーソナリティ障害に適用するにあたって、グループ編成上の注意点などが述べられる。セラピスト以外は読まなくていいが、疾患制限を設けてないピアスキーマ療法の参加者は、それぞれの疾患との相性を考えるきっかけになるので、余裕があるなら目を通してもいいかもしれない。
これまでで、スキーマ療法を知る体験する学ぶにあたって最低限読まなければならないと私が考える3冊の専門書を紹介してきた。
次回からは、セルフスキーマ療法向けに出版されている本や入門用のスキーマ療法の本などを紹介していこうと思う。
ちなみに、私はセルフスキーマ療法はこれまでに紹介した3冊を読めば十分であり、他のセルフスキーマ療法用のテキストは不要だと考えている。次回以降はそのような評価になる理由にも触れて行きたい。