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あのときのこと

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なんとなく書き溜めた創作的な文章を小出しにしていきます。
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#エッセイ

散歩

海のそばを、私はずっとつま先を見ながら歩いていた。2歩ぐらい先に歩いている彼の背中を視界に入れたら見つめてしまいそうで、視線が熱を持ってしまう気がして、見ることも眺めることもできなかった。彼もまた、後ろを歩く私を振り返ることなく、前を向いて「お前次第だ」とひとこと言った。 私は迷っていた。自分のやりたいことが一体どこでできるのか、前に進んでも道があるのかどうかわからない。そんな中、ずっと下を向いて歩いていたときに掛けられたのが、その言葉だった。 その言葉は、冷たいわけでもな

手袋との思い出

日に日に寒くなっていく11月。そろそろ手袋を出さないとな~と思いつつ、昨年どんな手袋を使っていたか、記憶をたどれずにいた。 思い当たる手袋はひとつだけ。臙脂色の薄めの生地でできた、ほっそりと手を包むような手袋。 でも、これだけで冬を乗り切れたとは思えない。北国の冬は想像以上の寒さ、想像以上の積雪である。深々と降り積もる雪に埋もれ凍えそうななか、あの赤い手袋だけでは心もとなかったはず…。 部屋に戻り、思い当たる場所を探してみると、妹が以前使っていた厚手のミトンの手袋が出てき