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月明かり町へ~私らしい場所を求めて~

あなたにとって《豊かさ》とは何ですか?
あなたの日常は愛おしいものですか?
《豊かな暮らし》と聞いてあなたが思い浮かべるものは何ですか?
あなたの住む場所は、あなたらしい場所ですか?

久しぶりの一人暮らし

私は東京都目黒区へ引っ越して1年半が経ちました。
学生以来の久しぶりの一人暮らし。
フリーランス音楽家の私は、日々色んな土地へ移動しているので、
正直どこに住んでいても変わりません。

教室は実家にあり、地元でたくさんの演奏の機会を頂き、
引っ越す必要があったわけではありませんが、日々の往復につかれたことと、30歳を過ぎ、母も自立し(うちは親子逆なんです)、
一人で生きてみたいという気持ちでした。

これは院を卒業するとき30歳まで独身だったら一人暮らししようと、
決めていた目標でもありました。(それまでは実家に甘えていました。)

祖父母の想い出の土地へ

29歳の誕生日に2回目のリサイタルを終え、アルバイトを辞め、
音楽家として本格的に始動し始めました。
「手放すと入ってくる」と言ったものでその後大忙しで、国内外たくさんの場所に行かせて頂きました。
特に2017年の年末は、1週間で5時間しか寝ないまま、10日間のトルコの短期研修へ行くことになったり。
プライベートでも色々と大きな変化があり、ここで「母と離れて暮らしてみたい」と思えることがあったのです。
私自身の自立でもあり、共依存からの脱却でもあったのかなと思います。

一人暮らしの家探しは、周りの誰にも言っていませんでしたが、実は29歳の頃から徐々に始めていました。
1年間、防音マンション専門の業者に登録していましたが、気に入った場所が見つかりませんでした。諦めかけていたそんなある日、急にふと話した言葉がきっかけで、知り合いのシェアハウスを紹介されます。

そしてその流れで、某音大近くでマリンバが演奏可のマンションを紹介頂きました。ようやく見つけた音出し可能の物件。
でも駅に降り立ってみると「ここじゃない」と思いました。
すごく良い不動産屋さんだったし、学生街で住みやすくとっても良い街だったけど、部屋を見に行く前に「私が住む町はここではない。」
と感じてしまいした。

では、どこなのか。

まず、東京。そして千葉とは反対側で、仕事の現場に近く(新宿・渋谷)
かつ週に2,3回千葉に帰るのに遠くない、交通費がかかりすぎないところ。

というのが絞り出した条件でした。

でもそれでいて音出し可能なんて見つからない。
もういっそ一度すべての条件を外して、純粋に住んでみたい土地から
探していってはどうか。
条件ではなく、個人として惹かれる土地を探そうと思ったのです。

どうせ住むならいっそ、この街に音楽家は私しかいない場所に住みたい。
東京と関東の地図を広げて、色々と考える中、ふと気になる土地が。

「目黒」

そこは母方の祖父母が新婚時代住んでいた土地。
祖母が亡くなる前に「目黒川の桜が見たい」と言っていたあの目黒。
ふと、ある記憶がよみがえります。

「私ここに住みたい!」と思った場所があったことを思い出したのです。
社会人なりたての25代半ばの頃、川崎からの帰り、車を運転しながらそう思った土地。。。洗足池。
地図をもう一度広げて考えます。

東急目黒線「武蔵小山」駅。

どこ???ここ。
ぐぐってみると、良く分からないけど、なんだか楽しそうだし、
マイナーな分、家賃が安そう。

しかもこの不動産屋さん、面白すぎる。
私の頭の中でなぜか何年も前から
「オシャレな外観の不動産やさんで私の新しい場所は見つかる」
そんな不思議なイメージがありました。
ホームページから見た不動産屋さんの外観はまさにそれでした。

ひとまず行ってみよう。
ただそれだけ。そのつもりだった。見つかりっこないと思ってた。

でも、足を踏み入れたら最後。
この場所が私の30代前半を過ごす、大切な場所となっていくのです。

降り立ってみた武蔵小山は、なんだか懐かしくて、優しい街。
物価も安くて、活気のある、宿場町品川。
でも少し歩けば、おしゃれなお店もあり、
目黒らしい雰囲気もある。

長いアーケード街パルム。
郊外の大きなイオンのある街に住む私には、
この小さくて狭い賑やかさが新鮮。

目黒通りはいちいちオシャレで、ここはドイツから来たコインランドリー。
クリーニング屋さんとカフェが併設されて、Wi-Fiフリー。
都会の生活感。

そうして不動産屋さんへ問い合わせのメールを送る。
「真剣にうちでお部屋探しする方じゃないとお手伝いしません」

やっぱり、変わってる(笑)

月明かりの町

私は演奏旅行中でも<地元の人しか行かない>お店を探して、ふらっと入って店主さんとお話するのがスキ。
その日は西小山の優しい雰囲気のパニーニ屋さんへ。(現在は閉店)
そこで教えてもらったのは、武蔵小山から目黒通りに行く前にあるという
小さな商店街。

そこは戦後の闇市から発展して、映画館や軒並み様々な商店が立ち並び、
当時はとってもにぎわったけど、今はいくつかの店舗が残るだけ。
その商店街のはずれに若いママさんが雑貨屋さんやっていて、こんな地図を作ってるのよ。
とかわいい地図を渡されます。

そしてその渡された地図を元に向かったのが、
旧月光町。平和通り商店街の端にある、月光舎さんでした。
オシャレなお店。優しくて、地元が大好きなオーナーさん。

「平日に来るといいわ。この街の良さは市場にあるのよ。」

その後、不動産屋さんとの面接で、いくつかの部屋に絞り込み見学。
西小山や武蔵小山の品川側など、どちらも素敵な間取りで、セキュリティーが良かったり、きれいで広かったり、特に後者は大家さんも良い方で駅からも近く、悪くはなかった。そして最後の物件へ。

「僕はね、この部屋は鈴木さんは気に入らないと思うんですよ。
何せ古いですからね。部屋も街も。」

見学の時間より早めに着いたこともあり、
「この商店街一のランドマークに行きましょう。地元の人じゃないと、
分からないような、ちょっとわかりづらいところにありますから。
でも生活が楽しくなる。東京でもこの場所は特別じゃないかな。」

タイムマシーンに入ったような、
アジアの小さな街に入ったような。
どこか懐かしくて、どこか新鮮。

たたき売りするおじさんの声。
にぎわう人。新鮮な食材。
地元の人や、箱買いする飲食店の方々でごったかえす「市場」。

部屋は確かに昭和レトロながら、リノベーションされた内装と、
昭和サイズは超小柄な私にはどれも手に届く範囲。
(他の部屋はクローゼットや食器棚を背伸びしないと届かない (笑))
何より大家さんがつけたという畳のシャンデリアが可愛いい。

「武蔵小山に住めば市場は自転車で来れますから、他の部屋も探しましょうか????」

「え、この街めっちゃ、楽しいです!!!私、ここに住みたいです♡」

「え!!!!!!!」

住む前にライブする

ご縁があって、引っ越す1週間前にすでに武蔵小山でライブもさせて頂きました。
二胡奏者で、武蔵小山で教室も経営するウェイウェイ・ウーさんの経営するカフェ。

「実は私来週から武蔵小山に引っ越します!」
不思議なMC。来週は住むというのが不思議な気持ちになりながら、
でもお客さんとお話して、新しい暮らしにすっごくワクワク。

実家の母に意をけして話す。そして驚く。
亡き祖父母が住んでたのは、武蔵小山のお隣、学芸大学の鷹番。
かつて祖父母が住んでいたすごく近くに引っ越す孫。

武蔵小山はあまり知られていませんが、
実は渋谷ヒカリエの前に20分で直通するバスがあり、
新宿には山手線をに乗り換えてすぐ。教室には嘘みたいに早く行けるように。池袋や横浜は東横線に乗り換えればすぐ。
都心や埼玉方面にも南北線や都営線で簡単に行けて、
なにより千葉へも電車でもバスでも1時間かからずいける。
羽田空港にも近い。新幹線も品川からすぐ乗れる。

でも家賃は安い。

そうして、私はなんだかわからないけど、引き寄せられるように、目黒へ
武蔵小山の旧月光町へと引っ越すことになったのです。

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