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20.春にして君を離れ 中村紗子訳
アマゾンでクリスティー文庫がKindle版で半額で売っていることをTwitterで知ってどれどれと思い、この『春にして君を離れ』と『鏡は横にひび割れて』を購入。
早川のクリスティー文庫kindleが半額セール中!ド名作がだいたい300円前後で買えてしまいます。ミステリそこまで興味なくても読んでほしいのが『春にして君を離れ』。よき妻・よき母でいたと自負する主人公がふと「自分の見てきた世界」を疑い出す物語です #今日の推し本https://t.co/5flBZCZWMh
— 青柳美帆子 (@ao8l22) February 26, 2021
鴻上さんの人生相談でも引用されたことがあります(ネタバレはないので読む前に記事読んでも大丈夫) 『春にして君を離れ』は「クリスティー、人間が書けすぎている…」と呆然とするすごい作品なので、心がすさんでいないタイミングを作って読んでほしいhttps://t.co/iHMb2Qx2rh
— 青柳美帆子 (@ao8l22) February 26, 2021
何回かKindleで小説を買って、漫画は画像としてとらえるから電子版でも問題なく読めたけど、字を読むのは紙に限ると気付き、小説だけは紙本で買うようにしていたんですが、このツイートを見かけたら300円で名作が読めるなら、多少に読みづらさは目を瞑ろう…とポチり。
この鴻上さんの人生相談、すごく覚えているんですよね。この記事を読んだ時も友人Aに対して少し相談者さんのような気持ちをもっていたことがあって、ぎくりとしたものです。
以下ネタバレ〜〜!!!
本当に面白かった。どんどん読めてしまい、早く続きが読みたいと思わせる一冊。最初のあたりで、すでに自分は良き母、良き妻だと思っているけど実際は自分のことしか考えていない、独りよがりで夫のことも子供のことも本当はなんにも愛していない、見栄っ張りの母親と読者はわかるんですが、いつこれに本人が気付くのかがソワソワ、ハラハラするんですよね。9章まで永遠と宿泊所の外を散歩して、真相に気がつきそうなところでジョーンが考えをやめて、蓋をしてしまう!読んでいるこっちは神の目線なので、『あなたのそういうところだぞ!!』とフラストレーションがたまるので、だんだんとこのジョーンが夫や子供たちに事実を突きつけられ、絶望するスカッとジャパンみたいな展開を望んでしまうんですがそうはならない。9章でとうとう自分自身で気がつくんですよね。夫のロドニーが実はレスリーを愛していたり、子供たちはとうの昔に自分の欺瞞っぷりを見抜いて、母親のことを軽蔑し、煙たがり、父親だけを尊敬していたこととか。
以外と、自分で気づいたのでここで改心してロドニーを新しい人生を作り始めるのかなとおもったら、最後。明るい声でロドニーに
「ただいま、ロドニー、やっと帰ってきましたのよ」
声をかけるの。どえ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!?!結局そっちを選ぶんかい!!変わってくれよ!ジョーン!ってなるんだけど、最後のエピローグを読むと、ジョーンが変わるのは無理だねと気付く。
すんごい面白くて、サクサク読めちゃうんだけど正直肩透かし。私はもっと、ジョーンが自分自身の本性に気づいて、誰にも愛されていないことに気がついて、これから絶望して生きていくにしても、これからちゃんと生きていくにしろ何かしらの変化がほしかった。最後あれだけの内省を繰り広げていたジョーンが結局、夫のロドニーに「リトル・ジョーン」と哀れまれて終わったのが悲しかった。
300円だし、楽しめたしいいか。と思ってたんですけど、この本、読んでる最中は「いるいる〜、こういう人周りに!」って他人事のように思っていたのに、じわじわとジョーンは私では?と思い始めるようになりました。それこそ、友人Aに対して、私はまるっきりジョーンのような、いや冒頭鴻上さんに相談してきた彼女とまんま同じでは?と。無意識の優越感を友人に対して振りかざしていたんじゃないかなと。こうなってくると、ジョーンみたくあのときの彼女がいった言葉、表情、私が彼女に思ったこと!
恥ずかしくてここでは書けないけど、自分がジョーンだと思って読んじゃうと俄然ジョーンに愛着が湧きます。私がジョーンだ。
最終的に、最後ロドニーにいままでまったく変わらない様子で接してしまうところも、人は変われない。とくに1人で寂しくて考えた時のことなんて、悪い妄想だったと気にしなくなるの、私も何度もやったことがあるからわかるよ!!ロドニーに対してもそんなに妻のことを「リトル・ジョーン」というなら、君もジョーンと話し合ったらどうだ!!と憤慨する始末。
(絶対に、ジョーンはロドニーの話を聞かない)
(多分、最初の段階で話し合いにならないことに絶望したはず)
(それでも少なからずの情はあるのは知っているよ)
そして、私自身も友人Aに対して、あんなにも優越感を持つな、対等に話をきけ、アドバイスなんて上から目線のことをするなと何度も思ったのに、会ったらそれがあっという間に壊れそうで、もう会うのが怖い。こんな自分に向き合う羽目になるなんて。あのとき、送ってたLINE、嬉しくなかったよね。こいつ、ただ私の話をネタにしたいだけだろ?って思ったかもしれない。
エンタメ目的で読んだのに、なんだか一緒に内省させられ本だった。