心の波風が立たない工夫
私の友達に、人と争わないプロフェッショナルがいる。ちょっとしたトラブルが起きても、風にそよぐ一枚の布のようにふわっとかわして、穏やかな流れに戻してしまう。それは相手をその友達のペースに巻き込んでしまうことでもある。
先日も友達のそんな言動を目の当たりにした。普通だったらプンプン怒って、強い否定の言葉も一つや二つ出て当然というような状況だったにも関わらず、今回もひらりひらりと肯定も否定もせずに受け流していく。しかしはたと、気がついた。その友達は、人と摩擦を起こしてしまう機会を自ら注意深く減らすことによって、自らの敵をなるべく作らないようにしている世渡り術を日々粛々と遂行しているのではないか、と先日私はやっと思い至った。
ここまで読むと、その友達はちょっとした世捨て人のような空気を纏った人なのか、はたまたぼんやりしていてオットリした感じの人なのか、常に適当に緩く生きているだけの人なのか、と思うかもしれないが、実は違う。基本的には真面目で、きっちりしていて、ちょっと古風かなと思うような社会基準も生真面目に持っているような人なのだ。しかし、いざ問題が起きると、先に述べたように、なんとも絶妙な匙加減でかわしていくのである。
どんなに避けようと気をつけて暮らしていても、生きていれば嫌だなと思うことが起きたり、困るなと思う人に出会うこともあれば、なんだかモヤモヤするなと感じることも起きてしまうものだ。そんな時に私はまだ、ただ自分の中の灰色になった部分を飲み込んで蒸発させて、つまりはグッと我慢するだけであり、それは決して上手に対処できているとは言えない状態だ。私がその友達の年齢に達した時までには、同じように、自分に来てほしくないものを、ほんのわずかな半歩程度の身のかわしでするりと避けられるような人になっていたい。