聴覚障がいのある地域おこし協力隊が倉敷で活動することで、身近な手話に気づく人が一人でも増えてくれたら。|2024.大暑・桐始結花
倉敷天領夏祭りで手話通訳を見かけた日のこと
7月20日に、倉敷で一番大きなお祭り「倉敷天領夏祭り」が開催された。
せっかく倉敷に移住してきたんだし倉敷で一番大きなお祭りにはとりあえず触れてみようと思って、岡山市内での取材帰りに電車でとんぼ返りして、夕方の倉敷駅へ。
いつもはスイスイ通れるペレストリアンデッキも、この日は警備員さんが立って一方通行になる厳重警戒モード。倉敷駅ってこんなに人が集まる場所だったっけ……と目が点になってしまう。
この日は、受け入れ団体である倉敷とことこから「JTブースで活動している倉敷小町さんの写真を撮ってきてほしい」と言われていたので、まずはJTブースへ。ちなみにこの「倉敷小町」さんというのは、倉敷のPRをする観光大使のこと。2024年は、37名の応募から3名が選出されたそうな。
無事にミッションをクリアして沿道に視線を移すと、浴衣や甚兵衛を着た参加者たちが踊りの準備をしている。どうやらこの後は、沿道で「代官ばやし踊り」なる踊りがはじまるとのこと。
これはきっとシャッターチャンスなのだろうとカメラを構えていると
鬼までやってきた。
さすが「桃太郎伝説」が伝わる岡山県倉敷市。鬼に挨拶された子どもたちがへっちゃらな表情だったのがちょっとびっくり。前職のろう学校幼稚部の子たちは、獅子舞に泣き節分の鬼に大号泣していたというのに。
(ちゃんと前後の指導で、獅子舞は一年の厄を食べてくれる神様だと話して獅子舞ごっこを繰り返したので2年目以降はへっちゃらだったし、節分も鬼の手紙が届いてから子どもたちで話し合ってやいかがしを作ったり豆を買ったりしながら恐怖だけでない活動になるよう工夫していました)
そんな沿道の様子をInstagramのストーリーにアップしていたら、同じく倉敷天領夏祭りの取材に来ていたおかやまの「すき」がつながるウェブマガジンキニナッタのお二人とばったり遭遇。代官ばやし総踊り以降は一緒にステージを撮影することに。
・ステージの上に手話通訳を発見!
「よし、撮影するぞ!」
とカメラを構えると、ステージ上に見知った顔が。しかも、その人は表情豊かに手を動かしている。
手話通訳さんだ!
びっくりして思わず、その場にいたキニナッタの二人に「ねぇ、手話通訳が付いてる!」と伝えると、二人も「本当だねぇ」と目を真ん丸としていた。
お祭りってその場の雰囲気を楽しめれば良いや……気分で行くものだと思っていたので、ステージのアナウンスなんて聴き取れなくて当然。というか、聴者だってお祭りのアナウンスなんてほとんど聴いちゃいないんだとばかり思っていたから(失礼)、お祭りのステージに手話通訳が欲しいだなんて思ったことがなかった。
だから、ステージに手話通訳者がいることにとっても驚いた。でも、そこに手話通訳があることで、HPを見なくても今どんなプログラムがあって次にどんなプログラムが待っているのか、どんな想いをもった人がステージに立っているのか……そういう情報をリアルタイムで知れるのが新鮮だった。
・リアルタイムで手話による情報から得られる臨場感よ
倉敷天領夏祭りほどの大きなイベントであれば、後日キニナッタや倉敷とことこ、そして大手新聞社やテレビ局のネットニュースでも知れる情報がたくさんあるかもしれない。
今までのわたしはそれで充分だと思っていたけれども、いざ目の前で「ほにや倉敷」さんのよさこい演舞を見ながら「水島よさこいは11月23日にありますよ。ぜひ来てくださいね!」なんて手話を見ると、ついスマホのスケジュールを確認してしまう。
手話通訳付きでライブに参戦したときのような臨場感を味わえて、リアルタイムで情報を得て楽しむお祭りの醍醐味を知ってしまった。
・ステージに手話通訳がいることって「そこに聴覚障がい者がいて【も】よい」というメッセージのような気がして
「聴覚障がい者のためのお祭りじゃないんだから手話通訳なんていらないんじゃないの?」なんて意見もあるかもしれない。実際に人件費がかかる取り組みだしね。
でも、そうじゃない。
聴覚障がい者「も」市民の一人として尊重されている。そう感じる聴覚障がい者が一人でも増えること、その姿を見る聴者が一人でも増えること。それが「共生」社会なんだと思う。
最近あるところで「聴覚障がい者に向けて情報発信をしてほしいとはお願いしていない」と言われてモヤっとした気持ちになっていたんだけれども、今回の天領祭りのように、「そこに聴覚障がい者がいるから手話通訳を」ではなく「そこにいるのが聴覚障がい者であって【も】すべての市民に情報を届けたい」というお祭りの心意気をみてちょっとスッキリした。
わたしも、別に聴覚障がい者だけに見てほしくて情報を発信しているわけではない。でも、聴覚障がい者が見たときに再現性のある詳しい情報を発信できるのは、当事者である自分しかいないと思うから。
だから、これからも聴覚障がいのあるわたしが #くらしきで暮らす 日々をわたしなりに発信していきたいなと、シャンとさせられた。
・手話通訳、今までもいたんだろうけど初めて気づきました
お祭りの後、倉敷とことこの一人に当日撮影したデータを送ったら
とメッセージが来た。岡山県の手話言語条例(岡山県手話言語の普及及び聴覚障害、視覚障害その他の障害の特性に応じた意思疎通手段の利用促進に関する条例)の施行は令和4年、倉敷市の手話言語条例も令和3年には施行されているので、今年度急に始まった取り組みではなさそうだな……と思って手話通訳者の友人に尋ねてみたところ、手話言語条例制定前からずっと続いている取り組みなんだとか。その頃は、聴覚障がい者の団体も代官ばやしに参加していたらしい。
聴者にとって手話通訳は自分事ではないから、人混みのうちの一人に見えても仕方がない。
でも。聴覚障がいのあるわたしと関わったことで、手話通訳が他人事でなくなる人が一人でも増えるのであれば。手話人口はもっと増えて、聴覚障がい者が移住することも当たり前になって、「これは、聴覚障がい者を対象とした情報なのか」なんて考えることなく自然とわたしたちの日々が発信される街になったらどんなに良いだろう。
この夏は、わたしの周りに「ここで手話通訳を見かけたよ!」と気付いてもらえた嬉しい思い出ができて本当に嬉しい。
桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)
二十四節気も「大暑」を迎えた。一年で最も暑さが厳しくなる季節。
7月24日は土用の丑の日で、スーパーにもウナギが並んでいたので暑い時期がやってきたのだなぁと実感した方も多かったのでは?
かくいうわたしも、お耳の仲間から「会社でウナギが配られるんだけど、一緒に食べない?」とお裾分けをしてもらったので、ウナギにありつけた。岡山の民間企業、全社員にウナギ配るってめちゃ太っ腹かよ。
前職が公務員のわたしにとってこの文化はとても驚いたけれども、ウナギを分けてもらえるのならもう何でもよい。土用餅とウリの和え物を作って、ウナギの到着をおとなしく待つことにした。
我が家に到着したウナギは脂が良く乗ったぷりっぷりのそれで。ぺろりと平らげてしまった。これでこの夏は、夏バテ知らずのはず!
この夏は、ウナギだったり桃だったり季節のものを一緒の食べようよと我が家に持ってきてくれる人たちのおかげで、誰かと食卓を囲みながら「おいしいおいしい」と言える日がたくさんあって、とても幸せだなと思う。
倉敷に来てからわたしの体重もうなぎ登りなのは、ここだけの秘密ですけどね。
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