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もうひとつの新しい制服を手にした日。


前回の続き

最終審査を終え、スタジオに戻る。私の膝は緊張のあまり笑っていた。座るときにがくがくと震えていた。
落ち着けと言わんばかりにスタジオの床はひんやりと冷たかった。

しばらくしてふっと蜘蛛の糸が切れたかのように、ぴんと張っていた緊張の糸が切れた。基本的にあまり顔に出ないタイプだが、わたしだって緊張するときはする。
オーディション会場に向かう道中、審査のタイミングで名前を呼ばれた瞬間、審査終了間際から数分間の間、合否発表のためにスタッフが前に現れた瞬間、私の場合緊張が頂点に達する。お湯を沸かすときみたいにぐつぐつと、沸騰して溢れる手前で自分で火を止めて、段々とおさまる・・・みたいな・・・表現って難しい。
(noteを書きながらもっと本を読まなくちゃと思う。言葉は奥が深い。椎名林檎さまみたいな辞書を愛読書にでもしようか。脱線してしまった・・・けどいつもこんなことを書きながら、話しながら思う。上手になりたい。ただそれだけ。)


ガチャ。

ざわざわとしていたスタジオが静かになった。合格発表だ。
ここで名前を呼ばれたらAKB48 9期研究生 中村麻里子。
呼ばれなければ、1年H組の中村麻里子で変わらずいるだけ。

「それでは合格者を発表します。」

五十音順で合格者の名前が呼ばれ始めた。

「な」かむら。

早くはないが、遅くもない。心の準備ができる真ん中あたり。心の中で「なかむら」「なかむら」「なかむら」とつぶやく。




「なかむらまりこさん。」

「はい」


・・・


名前が呼ばれた。

返事をして、そのまま立っていた。「合格だ、合格だ、合格なんだ!」と自分の中で反芻して、噛み締めた。数多くのオーディションを受けてきたが、合格を勝ち取ることなんかそうそうない。今まで多くのオーディションを受けてきた。何枚書類を書いただろうか。何枚写真をのりで貼っただろうか。


合格者の子たちと一緒に説明受け、さくらんぼ柄のリュックをしょって来た道を辿って帰る。行きと景色が変わって見えた。小説に書かれているみたいに「景色が違って(変わって)見えた」こんなことが本当にあるんだ。なんて思った。

最寄り駅の街頭さえ自分のスポットライトにみえた。
とまで書いてしまったらうそになるけど(笑)

合格者ではあったが、合格した感触がなかった。ふわふわしたような。夢心地のような。

今でも、わたしAKB48のメンバーだったのか!と思う。
というのも、楽しくも苦しくも、もがきながら過ごした8年間は本当にあっという間だったから。


あの日から、わたしはもうひとつの制服を着た。AKB48という制服を。






PS.そういえばオーディションで好きなメンバーは誰ですか?って聞かれたら「大家志津香さんです!」って答えるつもりだった。聞かれなかったけど。なんで?しーちゃんかって?かわいいからだよ!
このことをしーちゃん本人に言ったことがる。そしたら「絶対嘘やろ!絶対嘘や!」って言われました。本当なんだけどなあ・・・(笑)


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