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私が主人を「主人」と呼ぶ理由。それぞれの形のパートナーシップ

私は結婚当初から、公の場でもリアルなコミュニケーションでも、結婚した相手のことを話すときに「主人」という呼び方を使っています。

女性活躍推進やダイバーシティの事業や支援を長くしていることもあり、特に女性活躍に関わる友人からは、

「なぜ猪熊さんは”夫”と呼ばずに”主人”と呼ぶの?」

と言われることもあるし、もしかすると私のSNSでの投稿などを見て違和感を感じていらっしゃる方もいるのかもしれません。


結婚したパートナーのことや、もしくは事実婚のパートナーのことを何と呼ぶか。

「主人」「旦那」「旦那さん」「夫」「パートナー」「亭主」「相方」など…最近ではいろんな呼び方があると思います。

「主人」という呼び方を、特に女性活躍推進をしている方やフェミニストである方が避ける、もしくはあまり使わない理由もよく分かります。

「主人」という言葉には、「一家の主」「大黒柱」「自分の仕える人」といったような上下関係のニュアンスがどうしても含まれているので、既成概念的な男尊女卑の意味合いや、「主人=男性」という既成概念を推進してしまうようなことをできるだけ避けたいという思いなどがあるかなと思います。

例えば、私ではなく他の方がSNSで「主人」や「旦那さん」と記載しているときに、コメントで「なぜ夫と呼べないのか…」とコメントされていることを目にすることもあります。

ただ、私が結婚した配偶者のことを「主人」と呼ぶのは、個人的な主観として「夫」という言葉の響きがどうしても契約的な形式ばった冷たい感じがしてしまって、自分のパートナーを称するのにあまりしっくりこない、ただそれだけのことです。(これは私の個人的な感覚なので、「夫」と呼ぶ方を否定しているわけではありません。)

本来言葉というものは、自分の心情や価値観、育った環境や文化、その人らしい思いや表現の仕方によって、その時々に選択して使われているもの・伝えられるものなのではないでしょうか。

私にとっては、「主人」と呼ぶ方が、目上の方から友人の前まで幅広く使えて、家族としての親密な関係を想起させるイメージを持っており、ただ自分が使っていてしっくりくるので人前では「主人」と呼んでいます。


本来の女性活躍推進やダイバーシティは「型」にはめるものでなく、一人ひとりが”らしさ”を発露させられる、公平な社会を創ることに意味がある。

「主人」や「旦那さん」と主観的な意味合いを持って呼んでいる人に対して、「なぜ夫と呼べないのか」とツッコミを入れられてしまう社会は、本当にダイバーシティな(多様性を包含した)社会でしょうか?

男尊女卑や昔ながらの価値観に縛られてしまい、女性が可能性を発揮できない場面やケースというのは、働く中で、暮らす中で、家族の価値観の中で、残念ながら今の時代も多々あります。

女性を卑下しようと思わなくても、無意識的に伝統的な性役割観(昔ながらの女性らしさや女性が担うべきと考えられている役割など)に縛られたり、無意識のジェンダーバイヤスが働くことで、女性の可能性や機会が奪われることや、女性が孤独感や疎外感を感じてしまうこともあります。

ですが、教科書的にすべての女性に自分のパートナーのことを「夫」と呼ばせるのもちょっと違う気がするのです。

パートナーシップの形も人それぞれです。パートナーシップにも決まりきった「型」や教科書的な模範の形はありません。

自分と相手とのパートナーシップの中で、その上下関係や男尊女卑的な感覚が気になる方は、そういった関係を想起させるような呼び名を使わないということも良いと思います。

一方で、自分と相手とのパートナーシップの中で、相手を形容するのにしっくりくる呼び方が「主人」や「旦那」や「亭主」であっても良いと思うのです。

当の本人が満足していること、納得していることに対して、他の方が「こう呼ぶべき」「これはおかしい」ということは、本来すべきではなく、”その人が持っているその人の価値観を尊重する”、それが本当の意味のダイバーシティなのだと思っています。

(ちなみに、うちの主人は人前で私のことを呼ぶ時には「妻」と呼んでいます。これがもし、主人の価値観の中で「嫁さん」や「奥さん」と呼びたいのであれば、私はその価値観を否定するつもりはなく、主人の価値観を尊重し、その人らしい価値観で形容すれば良いのでは?と思っています。)

字面よりも大切なのは、そこに「相手に対する尊重や尊敬の気持ちがあるか?」ということだと思うんです。

「奥さん」や「嫁さん」と呼んでいても、相手に対する尊敬の気持ちがあれば、それは卑下する言葉として意図を持つわけではないし、「妻」と呼んでいてもそこに卑下する気持ちがあれば、対等ではないように。


そもそも日本語で相手のパートナーを何と形容すべきなのか適切な言葉がないことが課題

自分のパートナーに関しては、自分の主観で納得のいく、しっくりくる呼び方で呼べば良い。

日本語で難しいのは、話しているお相手方のパートナーをどう呼ぶべきか、という時にしっくりくる呼び方がないこともありますよね。


あるダイバーシティの講演に登壇者として呼ばれたときの楽屋で、女性活躍推進事業をしている私に気を遣って下さって、ご担当者の方が他のスタッフの方に

「猪熊さんの前では”ご主人”や”旦那さん”と言わないように」

と私の知らないところで事前にレクチャーしてくださっていたということがありました。事前にそのように言われていたのにもかかわらず、私が平然と主人の話になったときに「主人が…」と言ったので、大変驚かれたのですね(笑)


ですが、お話している相手の結婚相手を呼ぶ時って本当に難しいんです。

「ご主人」や「旦那様」と呼んでしまうと、その呼び方には違和感がある女性や普段から意識的に「夫」と呼んでいる女性にとっては、不愉快な思いをさせてしまうかもしれません。

ではなんと呼ぶか?

「○○さんの夫さん」と呼んだり「○○さんのパートナー(配偶者)」と呼ぶのがある意味での正解かもしれませんが、一般的な会話の中では、「え?」と聞き返されたり、違和感を感じてしまうかもしれません。(違和感を感じなければ、もしくは違和感を感じたとしても意図的に使いたい場合はもちろん使ってもいいと思います。)

その違和感を気にすると、どうしても「○○さんのご主人」や、逆に男性のパートナーを呼ぶ際には「○○さんの奥さん」と表現するしかないこともあるのではないでしょうか?

言葉というものは、自分が選ぶ言葉に関しては、自分の思想や価値観、自分らしい個性や表現で選択され、伝えられるものです。

一方で、時代を反映した社会的な暗黙知のルールや、どれだけその言葉が日常生活の中で多用されているかで、世の中的に日常に使うのに違和感がある言葉・ない言葉もあります。

「看護婦」が「看護師」に、「保母」や「保父」が「保育士」になったように、これからの時代において男女が平等に表現されるような新しい呼び方が推奨され、定着してくるかもしれません。

英語では「husband」や「wife」を主に使い、「夫」と「妻」という表現が標準なので、日本語のようなジェンダーのバックグラウンドは感じないと思いますが、

日本語の中でお相手の配偶者を呼ぶ時に、誰も嫌な思いをしない新しい言葉ができるのか、「夫さん」「妻さん」「パートナー」などの呼び方が定着して違和感がなくなる世の中になっていくのか、それとも今までと同じでこのまま変わらないのか、興味があるところです。


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