身体が自然に踊りはじめた話。〜海と蜜柑とヤンサンと〜
ある日、出会ったばかりのYくんから、突然連絡をもらった。
少し前にワークショップで出会った、美しい絵を描く人だ。
「今度映像作品を作るのですが、踊ってくれませんか?」
「ちなみに振り付けなしで、即興なんですが…」
申し訳なさそうな口調の提案に、私は即座にOKの返事をした。
こんなこと言うのも変に思われるかもしれないが、
その時私はちょうど、踊りたい時だったのだ。
踊りたい気持ちがうずうずしていて、踊れる場所や機会を待っていたところだった。
即答の私に、彼はとても驚いたようだった。
私もこんな二つ返事で引き受けてしまった自分に驚いていた。
ちなみに人前で踊ったことは、大人になってからは一度もない。
もちろん、即興で踊ったことは生まれてこの方一度もない。
ただ、踊りの相方になるHさんが、自分の踊りを持っているということだけはなんとなく知っていた。
それに飲まれる。それの世界に乗り入れる。私にできることはただそれだけだ。
でもやる時だと思ったし、なぜか出来るという確信しかなかった。
撮影当日、茅ヶ崎の海辺から撮影が始まった。
振り付けも、打ち合わせも、何もない。
ただ、踊る2人が惹かれ合うという設定と、音楽だけがそこにある。
それだけで十分だった。
呼吸や空気、身体の動きだけでコミュニーケーションをとること。
最初は恐るおそる探り合いながら、でもすぐに、身体が自然に踊りはじめていた。
そして途中からはもうそれが楽しくて仕方なかった。
何も怖くない、なんでもできるような不思議な状態。ただ、飛び込んで自由にやるだけ。
なんだか、自分の奥の方にずっとあったものが、
色々なものに触れることで思い出されていって、うずうずして
それがやっと解放された感じ。
あ、こういうことだったな、と。
一気に視界が開けた気がした。
確かに思い返せば、
幼い頃から親の影響で舞台やミュージカルを見に行くことが多く
クラシックバレエを中学に入るまでずっとやっていて
中学から一気に音楽漬けの日々が始まるわけだが
その前から自分の中には「舞台」「踊り」の記憶が確かに、そして色濃く刷り込まれているわけで。
なのでここ最近、ドレスコーズの影響もあり「舞台」や「踊り」にとても興味が向いているわけだが
それは当然のことと言うか、本来あるべきところに戻ってきたということでもあって。
「舞台」も「踊り」も、「音楽」ととても密接に繋がっていて
「音楽」の世界を広げるために、立体的に具現化するために、
「舞台」や「踊り」の要素が力を持つこと。
表現には自分の身体の端から端までを使えるということ。
そして言葉や理屈では捉えられない、空気や呼吸、間、といったものが確かに存在すること(これはまさに音楽でもある)。
これまでずっと、自分の作りたい音楽と空間について、
漠然としたイメージはあれど自分の中でうまく理解と整理ができていなかったことが、ここ最近かなりしっかり見えてきて
その一端をこの機会がすごく担ってくれたと思う。
そして何より、どこか似た者同士の人々が集まり、初めてのことに挑みながらわいわいとひとつの作品を作ることが、とにかくとても楽しくて仕方がなかった。
とても素敵な友達が、仲間ができた感覚。
素敵なメンバーに、そしてきっかけをくれたヤンサンという存在に、心からの感謝を。
そして私の踊りたい意欲を誘発してくれた、ダンサー熊谷さんの「ダンス劇」と、このお誘いのきっかけになった詩人久世さんのワークショップにも感謝を。
そして出来上がった作品はこちら。
ちなみに作品中の歌も、撮影当日にその場で合わせ&即興でハモリをつけて一発撮りという、ミュージシャンらしいこともやっております
ということで、これからは何でも出来る気がしている今日この頃。
こいつを何かに使ってみたい、作品の一部にしたい
一緒に何か作りたいなど
音楽関連でも、無茶振りのオファーでも、ぜひお待ちしています。