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3000円のSUSHI BENTOの中身がヤバすぎる

オランダのZuid(ザウド)駅。ここは、いわば東京の「丸の内」や「六本木」に似ていて、特にオランダのビジネスマンが多く集まるエリアで、金融やビジネスの中心地の一つとされている。

日中はスーツをビシッと着こなした、いかにも優秀そうなサラリーマン達が真っ白い歯を見せながら長い脚で闊歩している。

ちなみにかの有名な世界的DJとして知られるマーティン・ギャリックスの自宅がこの近辺のビルの屋上にあるのは有名な話。

私も実はここのあるカフェでマーティン・ギャリックスを生で見たことがある。御一行を連れてアーティスト集団みたいな雰囲気のグループが向こうからゾロゾロやってくるなと思っていたら、中心に彼がいた。

まぁそんなことはさておき。

私の家からも割と近いので、最近自転車も手に入れたことだし、自宅作業に集中できなそうな日はよくこのZuid周辺のホテルのカフェで仕事をしているのだが、

今日そのエリアに行くと、スーツを着た優秀そうなサラリーマン達がこぞって同じ柄のランチボックスが入ったビニール袋を手に下げて歩いていた。

なんだ、あの「東京の駅弁みたいな雰囲気の手提げ袋」は。

そのビニール袋に入っているランチボックス(だと思われる箱)の形といい、ビニール袋のロゴといい、幕内弁当っぽさを感じて、見入っていたら次から次へとぞろぞろスーツのサラリーマンたちがみんなそのランチボックスを手に下げて歩いてくるではないか。

もう一度ガン見してみた。するとなんとそこに「SUSHI SANDO」と書いている。

「寿司サンド」だと?

まさかの日本食?? てか、寿司サンドってなに? 気になる。

私はすぐにスマホでその店を調べた。ここから徒歩2分のとこだったので行ってみることにした。ちょうどお腹も空いていたので、節約中だったがたまには外食もいいかと思ってとりあえず向かう。

すると…

SUSHI SANDOはあった。そして1番上に、あのスーツマン達が買っていた寿司サンドボックスっぽいやつがあった。

ぬぁっ!
なんと19.5€もする。

うーん、まぁオランダだったら別に全然驚くような値段じゃないんだけど、ちょっと高め。

13€くらいなら全然許せるっていうかむしろ安めのランチなのだが…。

19.5€かぁ。高いな。今日本円で調べたらちょうど3000円くらいだった。円安やば。

しかも不味いのはわかっていた。当たり前だけどもちろん「寿司」なんかじゃないことも。海苔とご飯が巻かれていたらこっちの人はなんでもSUSHIと名乗る。寿司ではない。SUSHIである。中の具がアボカドでもフライドチキンでも、白米と海苔。その2つの条件があれば全てのものはSUSHIと認識されるのが、海外だ。
どーせ、ガッカリするのが目に見えながら払う19.5€。それでも私はオランダ人に好まれる日本食が、どんなものか気になっていてそこの好奇心が優った。

早速購入。ピッと電子決済をする。
サーモンボックスにした。

すると…。

こちらが3000円のサーモン弁当である。

和牛弁当とか、買えたよね。3000円あったら。
てかその前にちょっと待ってくれ。


右手前のこの海苔チップス。おい、冗談だろ。これAH(オランダのスーパー)でみるNori Chipsだよね? 100%そうだよね? それを3000円のランチボックスの付け合せで出すってどういう感覚?

いわば、和牛弁当の付け合せとして「じゃがりこ」が乗ってる感じだ。
いや違う。そもそもの前提が違う。これは和牛弁当の単価じゃない。オランダでこの価格は日本のランチ、1200円くらいだろう。

だとしたらまあ妥当…なのか? いやでもお菓子をランチセットの付け合せにおかずみたいには出さないだろ。

そしてこの手前のアボカドと茎わかめ、枝豆がもうポケボールそのものの発想だった。

ポケボールとは、よく日本食レストラン、特に寿司系のレストランに行くと一緒にメニューの中にあるものなのだが、本来はハワイの郷土料理である。日本は関係ない。だが、具材が生の魚(主にツナ、サーモン)、茎わかめ、えだまめ、白米。なんかそんな感じで具材がほぼSUSHIと同じなので、一緒に出されるっぽい。

そしてこの茎わかめ。やたら甘くて、とにかく調味料の味がする。でもこれオランダでChuka Wakameという商品名で割と人気が高く、日本食レストランに行くとほぼ必ずメニューに載っている。普通に美味しいけど調味料の味がするし、例えるなら駄菓子屋にある真っ赤なイカのお菓子、「よっちゃん」みたいだ。(わかる人いる?)

そして問題のSUSHI SANDO。


なるほど。紫蘇の代わりにレタスが挟まっている。ついでにアボカドも。サンドイッチの寿司版か。いや〜〜、レタスはチーズとかハムとか塩気の強いものと合わせるから、ハンバーガーなら濃いソースがかかったパテと合わせるからうまいんだろうが。生のサーモンと白米という繊細でシンプルな組み合わせに、無個性のレタスは全く合わない。醤油をつけて食べてみたが、口の中でレタスだけ明らかに場違いだ。

想像通りの味すぎた。まあ、そうなるよね。


そして日本人として1番許せないのがこのサーモンにかかった甘じょっぱいソース。

生のサーモンの良さ、台無しである。
サーモンは醤油やろがーーーい!!

この甘じょっぱソースをかけたらなんでもこの味になる。素材とのマッチングが全く考えられていない。

というか素材本来の個性を活かす気がない。
学校の制服と一緒だ。新卒面接のスーツと一緒だ。
みんな同じものを着せて個性を潰そうとしている。

ボロクソに言う私。

が、しかし。
私も思うところがあってちょっと考えてみた。

そもそも、味覚に正解というものは存在するのだろうか?
例えば品質のいいものを食べた時に美味しいと感じて、ジャンクフードなどの粗悪品を食べた時にまずいと感じるのが正解だと勝手に思っていたが

その逆をいわゆる「舌バカ」と呼んでいたが
それは果たして正しいのだろうか?

そももそ人の味覚というものは、何によって決定するのだろう?
恐らく幼少期から食べているものによって形成されるのだろうが、その場合、幼少期から食べていたものがジャンクフードの人は高級食材などの繊細な素材の良さを生かしたような味付けに対して恐らく物足りなさを感じ、美味しいとは感じないはずである。

だとしたら揚げ物や、味の濃いものが好まれるオランダで、繊細な日本の味をそのまま再現したらきっと「味が薄い」とか、「まずい」となる。

やはりローカライズは大事なのだ。

伝統や本物を追い求めるのは、自己満であり、現地で「求められているもの」ではない。

自分が好きなものと、相手が好きなものは違う。

自分がいいと思ってるものが相手にとっての正解とはイコールじゃない。それを押し付けるのはただの独りよがりになってしまう。

自分がこだわって何かを人に提供することはそれはそれで尊くて大切なことだと思うし、きっと洗練されたファンがつくと思うが、受け入れられるかどうかは、それを展開する場所を慎重に選ぶ必要がありそうだと思った。

でなければせっかくの努力やこだわりも身を結ばないかもしれない。

にしても、なんだか悲しくなるSUSHI SANDO BOXであった。手作りのものがなにひとつ入っていない。いや、一応あのサンドは手作りといえば手作りなのかもしれないが…。

でもそれがビジネスなのだろうか。この感性は私が日本人だからそう感じるだけで、現地の人には関係のないことなんだろう。

やはり海外でビジネスをするなら全てにおいてローカライズを視野に入れることが大切である。そのことを再認識させられたお昼ご飯であった。

オランダの丸の内、Zuid駅の優秀なオランダのビジネスマンは、洗練された高級寿司よりもきっとAHの海苔チップスが入ったポケボールもどきのSUSHI SANDOが好きなのだ。

いや、それとこれとは別な気がする。
高級寿司は高級寿司で、こっちでも人気を博しているので。

まぁ、おしまい。

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