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《ポエム》-千年の祈り-vol.50


窓辺に佇む独りの男の影
揺れながら記憶を辿る



錆び付いたガラクタども
部屋中に光る銀の糸が無造作に絡み合う
そこに眠る哀しい過去

噎せ返る過去の匂い
千年といういにしえの空間

あの日の記憶が何処からともなく降り注ぐ
生きながらにして死んでいるも同然な
忌わしい生き物


生暖かい鮮血の流れは勢いを止め
目に触れる太陽の光りとは
まるで違っていた風の冷たさが
体温を奪っていった


全てを見透かす様な瑠璃色の瞳を持つお前
鈍色の瞳には苦しい程に眩しく見えたあの夏の日

この場所で逢い
この場所で見つめ合い
戯れの時を繰り返し


この場所で絶え

そして別の生を受け
独り甦った


意思とは無関係に息衝いきづき始める

再び目醒めてしまった
過去の呪縛から解き放たれることなく訪れた今宵


人間と同じ姿の人間ではない生き物

人間界のそれとは明らかに違う生きる歳月
途絶えること無く流れ続ける時を
何百年もの間
見つめ続けてきたこの古城で
俺は何を差し出せばいい


存在すら認められない性


静脈の告げる鼓動の速さが
波動となって伝わってくる

どんなに離れていようと
敏感に感じ取ることが出来る

生きながらえる為だけに与えられた能力ちから


人間界の不躾な風が何処からともなく入り込み
コートの裾を跳ねあげながら
いつまでも纏わり付く


俺の生きる時間は
時として永遠

簡単に手に入るものでもなく
簡単に手放せるものでもない


煩わしさから解放されたくなる瞬間
仕掛けては陥れ

生きる為に生を奪う


どんな意味があるのか
永遠の命など

苦悩にさいなまれた命など



あの日のお前がいなければ
とうの昔に破滅していたかもしれないこの命
今更惜しいことなどあるものか

一度失った命


いつでもお前に捧げよう
何の躊躇いなどあろうか

人間を生きた時間の中に
今も鮮明にお前とそこに生きている俺がいる

お前と生きた証が匂うこの古城
この運命に抗うことも叶わず


人間が持ち合わせている七つの色
それは光にも似た透明なやいばの様に
死ぬことさえ許されないこの胸に
音も無く突き刺さる


プリズム化した大きなガラス窓から
俺の生き様を嘲笑うかのように
無作為に射し込むスペクトル


古城の闇に潜む生命いのちの息吹
長い眠りから醒めた様な気怠い日々

産声を上げた時の恐怖にも似たあの瞬間は
じっと息を潜めて


ここに眠る千年の息遣い
ここに待つ千年の祈り


運命に導かれし夜に
絡めた指先から放たれる妖しく薫る
お前が零した息遣い

導かれし聖なる夜に
お前は何を望んだのか


鮮度の低い空気の漂うこの空間で
これからも繰り返され
取り残されてゆく侘しさから
俺を救ってくれるか


フラッシュバックする二人を
そこはかとなくのみ込み続ける
巨大な種族の渦


照らす燭台の炎
消えることの無い罪深き罠

いつしか紫紺の帷が夜を告げる
聖なる魂達が目醒め始めるとき


輪廻するお前の魂の匂いを
独りただ待っている



甦りし記憶は美しいままの穢れなき二人


永遠とわに誓うは
唯一あの日のままの

この胸の奥に残した

緋色の想い


-千年の祈り-



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