【エッセイ】運転したい父としたくない私
「抗う」というテーマで書いてみました
読んでいただけたら、うれしいです😊
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この春、東京からH市に移住した。
H市を選んだのは、夫の実家と私の実家のほぼ中間点であり、気候が温暖な所だから。
とても満足している。
人は穏やかで優しいし、東京に比べて雨の日が少ない。
新居を探すときに重視したのは、たいていの生活が徒歩圏内でできることだった。
この点も満足している。
駅、百貨店、スーパー、図書館、病院、映画館まで、歩いて10分くらいで行ける。
けれどH市民の諸先輩方は、口を揃えて「車がないと不便よ」と言う。
その度に「そんなことないですよ。運動になりますし、家の前にはバス停もあります」と答えていた。
夏になった。
夏になると、歩くのがつらい。
日傘をさし、首に保冷剤を巻いて、汗たらたらで歩いている私の横を、ビューン、ビューンとマイカーが涼やかに走って行く。
やっぱり……。
いやいや、そのうち秋になる。
しかし冬になれば、「からっ風」が吹き荒れるそうだ。
本当に大丈夫だろうか。
弱気になってきた私の横で夫がつぶやいた。
「やっぱり車を買おうか? 運転、頼むよ」
いやいや、来年還暦になるというのに、今さら車の運転はしたくない。
何しろペーパードライバー歴は30余年になるのだから。
東京では、駅から徒歩4分の所に住んでいた。
6分歩けば、地下鉄の駅があり、15分歩けばJRの駅があった。
東京は交通量が多いし、公共交通機関の方が早く着く。
それに、我が家に子どもはいないし、病院通いが必要な人もいないから、ぜんぜん必要なかった。
先月、運転は怖いと心底思ったことがあった。
父が交通事故を引き起こしたのだ。
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父は97歳、まだ運転している。
車がないと不便な所だし、母が足の手術を繰り返したという理由もある。
高齢者が運転免許の更新前に受ける認知機能検査や運転技能検査は、なんなく合格していた。
68年間、無事故だったこともあり、私は強く言わなかった。
それは、入院中の母を見舞いに行った帰り道で起こった。
父が一時停止しないで直進したところに、右側から来た車が衝突した。
父は全くの無傷だったが、相手方は胸にアザができた。
通院するほどではなかったが、心も体も車も傷つけてしまったことにかわりはない。
父はすっかり気落ちして、
「もう運転はしないよ。なんだか怖くなった」とつぶやいた。
頼もしかった父が、急に小さく見えて、やるせない気持ちになった。
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それが、なんと1週間すると、父は運転を始めた。
「運転するのは、近所のスーパーまでだよ」と言いながら、病院にも通っている。
確かに、スーパーまでは歩いて20分かかる。
母が入院中の今、毎日のように総菜を買いに行く必要がある。
父は料理ができない。
そこで、訪問介護を頼み、買い物と食事作りをお願いした。
来月からは、訪問看護も頼む予定だ。
これで通院の回数も減る。
あと、車が必要なときは、タクシーを呼べばいい。
ここまでお膳立てしたのに、父の口からは「免許返納」が出てこない。
それどころか、「自動車保険で修理して、新車みたいになったぞ。まだ1万8千キロしか走ってないんだ。でも売ったら、50万円にしかならない」
私に譲りたいのか?
実は、父がH市の老人ホームを検討している。
車があれば夜中でも飛んでは行けるが……。
よし、覚悟を決めた。
「H市も暑くて、車を買おうかと考えてるの」
「お、買わなくても、お父さんの車あげるよ」
「いいの? ありがとう」
と喜んでみせる。
「だったら、もう免許を返納してもいいな」
よし!
父も私も、この辺りでやめることにした。
𓂃 𓈒𓏸໒꒱· ゚ 終 𓂃 𓈒𓏸໒꒱· ゚
父の交通事故を引き起こした当時のことは
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました m(__)m あなたの大切な時間を私の記事を読むために使ってくださったこと、本当に嬉しく有難く思っています。 また読んでいただけるように書き続けたいと思います。