アートにエールを!東京プロジェクト
私は、尺八演奏家の工藤煉山さんと「nostalgia」という作品を提出させていただきました。
新型コロナウィルスによって活動の自粛が呼びかけられ、実際に表舞台に立つ機会を失ったとき、単にアートとは何かと問い直すだけではなく、こうした切迫した状況においてのアート、音楽の必要性、力について、改めて考えました。そして出た答えは「共有する」「共感する」ことの喜びが人の絆や繋がりを再確認させ、勇気づけるということ。故郷を想い、両親や子供たちを想い、過去や未来を想って、「今」という愛おしい瞬間をより大事に感じられる音楽は、やはり、誰もが知る日本の歌なのではないかという結論に達しました。
今回、「夕焼小焼」「浜辺の歌」「故郷」の編曲もさせていただきました。緊急事態宣言真っ只中、一人でピアノに向き合って音を探していました。今までの「当たり前」が通用しないのだと覚り、その時できることを必死に手探りでトライする日々の中、原点に立ち返るというか、真理に近づくといういうか、そういう感覚で音に向き合いたいと思った時期でもありました。
煉山さんの尺八の音には、楽器という概念を超えた感覚が宿っていると感じます。彼とはずっと、クラシックとか邦楽とか、ヴィオラとか尺八とか、そういうジャンルや形式にとらわれることなく音を重ねてみたいと思っていました。このプロジェクトを形にするにあたって、それが実現したことはとても嬉しかったです。収録の時も、ご協力いただいたHakuju Hallの美しい響きの中で、まるで森に流れる風の音に耳をそばだてるような感覚で、演奏しました。アップした動画をご覧いただくとき、一度は目で見ながら、そして、一度は目を瞑ってお聴きいただけたら幸いです。実際、二人とも「いつも」とは少し違う演奏の仕方をしています。
ネタバレになってしまいますが、編曲中、学校に行けない子供たちのことがどうしても頭から離れず、作品の冒頭と終わりに学校のチャイムをそっと忍ばせてあります。
録音、録画、編集は煉山さんがしてくださいました。彼の独奏の世界観もとても素敵なので、是非そちらもお楽しみになってみてください。
「アートにエールを!東京プロジェクト」
文化の灯を絶やさないための緊急対策、芸術文化活動支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」第一弾を実施します。この事業は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に伴い、活動を自粛せざるを得ないプロのアーティストやスタッフ等が制作した作品をWeb上に掲載・発信する機会を設けることにより、アーティスト等の活動を支援するとともに、在宅でも都民が芸術文化に触れられる機会を提供するものです。