第1章-4 (#4) 謝ってよ[小説]34年の距離感 - 別離編 -
憂鬱を押し殺して笑顔を作る月曜日の朝。ガラっと開けた教室のドアの向こうには、昨日までとは違う世界線が広がっていた。
「おはよう。月桜。ねぇ知ってた? 長濱くんと6組の寿吏亜、付き合ってるんだって!」
「月桜が彼女じゃなかったんだね」
「ずっと隠してるのかと思ってた」
優等生の長濱くんとヤンキーの寿吏亜。恋の話が大好きな中学生たちは、新しい噂に簡単に飛びつく。その日の教室は、誰もが驚く異色カップルの話題で持ちきりだった。
寿吏亜は目がくりっとした愛らしい女の子だった。せっかくの愛らしさをパープルのリップが一生懸命隠している。寿吏亜の家は複雑な家庭で、中3の姉はしばらく学校に来ていない。鑑別所にいるとかいないとか? 寿吏亜が影響を受けるのもムリはない。
長濱くんに一目惚れした寿吏亜は、猛アタックを繰り返していたらしい。欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる。なんだか、泣いては欲しがる駄々っ子みたいだ。寿吏亜の幼さと同じ土俵には乗りたくない。そうやって寿吏亜を蔑むことで、わたしはなんとか平常心を保っていた。
わたしのことを睨みつけてくる先輩女子。寿吏亜が所属しているバスケ部の先輩や、髪を茶色に染めたヤンキーたちだ。そうか。そういうことか。寿吏亜と繋がっている人たちだったんだ。
その日から先輩女子に睨まれることはなかった。嫌がらせの電話もかかってこなくなった。まるで月桜という女の子の存在なんて、はじめからなかったみたいに。
ねぇ。謝ってよ。
勘違いしてたんでしょう?
悪いと思わないの?
わたし傷ついたの。
ねぇ。謝ってよ。謝ってよ。
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