鞠乃
書いた小説です
嘉納の体温は彼の言葉と同じ温かさを持っている。肌が触れていなくても、隣に横たわるだけで暖かい。これがいけないのだと思った。このせいで私は彼を信じ続けてしまうのだろう。まっすぐに三人の女性を愛するということをやってのける人間であるように思えてしまうのである。 鈴木絵美を憎んでいるのではなかった。 絵美の話をする嘉納の口元を見ていた。焦点の外で形を変えてきらきらとしている二つの目を見るだけの用意がなかった。三年の間に彼がくれた言葉を思い出そうと試みたが、箪笥を開ける手がもたつい
遅すぎ!!!! ようやく観ました。 原作の1937年に出された本、前読んだ時別に好きじゃなかったので、なんか渋ってました。 1.時系列整理 (塔が降ってくる) (大叔父が何人もの死者を出しながら囲いを作った) (大叔父が姿を消す) (大叔父が世界を創る) (洪水の時見つけた地下通路を塞ぐ) (お母さんが塔に入ってヒミになる) (1年後、塔が崩壊しヒミ元の世界に戻る) ・ ・ ・ 東京 空襲 母が病院の火事で死ぬ 母を助けなければならないという思いから走る 急いでいても
2023.7.16 ヒューマントラストシネマ渋谷 スクリーン③ 途中からずっと泣いていたし話しかけられて返答できなかったし泣きながら23時の渋谷を歩いて泣きながら電車に乗って帰った 昨年「あのこと」観た後も同じ状態で何も考えられなかったですが今回こそは考えてみせます。 (あらすじ引用したけど全員今すぐ映画館で観てください) これは確率の話だ。彼女はハズレを引き続けただけであり、本当に何も悪いことをしていないのだ。もちろん教育と一定水準以上の経済力や家庭環境、もしくは非
どうしようもないのだ。僕は誰のためにも生きられない。こんなことを言うのは格好が悪いし人々がもっと上手くやっているのもわかっているがとにかく自分には無理なのだ。善人ぶっているのも馬鹿らしいので悪を気取ってみる毎日。とはいえ本当に人を傷付けたい訳ではないのが僕の面倒な所だ。自分が勝手に傷付きやすいからでもある。大好きだった人をひどく傷付けてしまったからでもある。 小さい手の感触をまだ思い出せるようだ。夕暮れ、誰もいない住宅街は未来を忘れさせて、そうした瞬間だけで人生を終えられ
生きてるというより、仮死状態にあります。 鬱病になった元彼に別れようと言ったら、機能しなくなったものを捨てるんだねと言われてその通りですと思いました。私は大切な人を大切にすることができない人間です。それは仕方ないよ、鞠ちゃんがそこまでする必要ないよって言ってくれる優しい友達がいます。でもこの友達って私が鬱になって彼氏に振られたら彼氏最低だね><って言うことを私は知ってます。捻くれててごめんなさい。私は自分が大好きでめんどくさいことはしたくないから別れました。あんなに好きだっ
女はベッドから手を伸ばし、上着の中のココアシガレットを取り出した。願掛けで禁煙中なのだと言う。俯き火をつける横顔が好きだったが、シガレットを咥えた唇がむずむずと動く様も悪くないと思い直す。頬擦りすると微かに砂糖の匂いがした。伸びた髭をくすぐったいと言われる。 喫煙者の生は刹那的で、禁煙とは中二病的姿勢からの脱却だ。それをさせる願とは何なのか気にならない訳ではないが、だいたい想像もつくし、自分はいつもこうしたことを聞くのが苦手だ。責任を取れないから。女性の抱える重たい荷物
ニューヨーク、マンハッタンのChelseaという地区には小さなアートギャラリーが少なくとも数十ある。 展示の閲覧は基本的に無料だ。今年春に留学に行った際、貧乏学生だった私は休日をこの地区で過ごすことが多かった。 これらのギャラリーの本来の目的は作品の販売であるため、ほとんどの場合作品や作者に関するフリーペーパーが置いてある。現地の客はあまり取っていなかったが、この街の全てを持ち帰りたい私は必ず一枚一枚拾い集めていた。 未だに、その中の一軒のギャラリー303 Galler
17時、家を出る。電信柱と電信柱を結ぶ鉄線もこの時間だけはオレンジ色を背景に美しいシルエットを描く。 家賃4万円の城と引き換えに歩かなければならない駅までの20分はヘッドホンがあれば苦ではない。THE NOVEMBERSのアルバムを頭から爆音で流す。アルバイトは1時間に1080円が口座に入る。生きるために働いているが、働かなければかからない費用もあると思うと手を止めたくなる。けれど働くために生きているとは思いたくなくて、言葉を遺す。心地良いように音に乗せて。 僕にとって
冬の最中に彼の運転で行った江ノ島を思い出す。嘉納が「紗夜を車に乗せたい」と言ったので、レンタカーを借りたのだ。沖縄出身の嘉納にとっては、江ノ島の海など汚いだけだろう。そう思っていたが、海辺に立ち並ぶパステルカラーの家々を見るや否や彼は歓声を上げ、「俺の故郷に似てますね」と言った。 車を降りて海辺に腰掛けると、それまで感じられなかった潮の香りが鼻をくすぐった。少し低くなりつつある太陽が水面に反射してきらきらと光る。遅れて歩いてきた嘉納は私の横に立ち、目を細めて猫のように伸
暗闇にカーテンが揺れている。 手を伸ばしてそれを掴む。ざらりとした布の感触が慣れ親しんだものであることを確かめ、手を離す。 陽気な笑い声とバイクのエンジン音から、窓が開いていることを知る。腕に当たる春の風は温かい。時間を知ろうとスマホの電源を付け、眩しさに目を細めた。二十二時四十七分。習慣としてLINEを開き、直ぐに閉じた。連絡が来ないことを私は知っている。 喉が渇いたが、ミネラルウォーターを切らしていたことを思い出した。コンビニくらいなら行けるかもしれない。うつ伏せ
はじめまして。鞠乃といいます。 Twitterで映画とか小説とか恋とかの話をしています。 自分や周りの人たちのことを少しデフォルメして小説にしたものが溜まってきたので、noteで少しずつ公開していこうかな〜と思っています。 特別な体験をした訳ではないですが、生きるのが下手くそな自分、すぐに傷付いてしまう自分ができるのはこういうことしかないのかなと思っています。正直、全然好きじゃない自分をさらけ出すのはとてもしんどいです。だから美化しそうになります。いつもそこで闘っています