転校生
「今度おうちお引越しするよ。でも、まだ誰にも言っちゃダメよ。」
両親からその言葉を聞いた瞬間、小学生だった私の心はバクバクとなる音とともに躍り出した。
「ついにわたしも転校生になれるのね!」
こんなにも嬉しい気持ちになるのは、学校に転校生が来るたびに、うらやましかったからだ。
転校生は転校して間もなく、週に1回行われる朝の朝礼で、舞台の上に立ち、校長先生のとなりで全校生徒に紹介される。
転入するクラスに行くと、転校生をクラスのみんなが囲んで様々な質問を矢継ぎ早にする。
「どこから来たの?」
「前の学校はどうだった?」
「いつも何して遊んでたの?何が流行ってた?」
「どんな友達がいたの?」
「何が好き?」
私が育った地域は、いわゆる団地。高度経済成長期に作られた大型団地の一角だった。
そのため、幼馴染が多く、幼少期に面識がなかったとしても、何かしらで繋がりのある子が多かった。
そして、街は公園だらけ。家の周りだけでも4つの大きな公園があった。
そのうえ、家の目の前も大きな公園で、遊んでいて何かあっても大きな声で親を呼べば、家の窓からひょっこり顔をだすほどだ。
これだけの大きな公園に囲まれた地域ならではで、毎日どこの公園で遊ぶかを決めるたびに、ケンカになることも少なくなかった。
子どもながらに、コミュニティの繋がりの強さを感じていたためか、他の場所からやってくる友達に、みんな興味深々。
部外者は禁止!という雰囲気は全くなく、みんな転校生を心から歓迎した。
「わたしも転校したら、こんな風に温かく迎え入れてもらえるんだ」
新たな友達に温かく迎えられ、さらに友達が増える。
そのうえ、引越し先は、親の実家の地域。
馴染みのある地域に緊張や怖さは何もなく、むしろ制服のある小学校に転校できることに、ワクワクしていた。
「私立の学校に転校するみたい♪」
「早く転校する日がこないかな♪」
両親から正式に引越しすることを教えてもらった日から、私は引越しまでの日数を毎日数えていた。
転校することについて、何を考えても、とにかく自分にとっていい要素しか思いつかなかった。
地域が変われば、子どもであっても周りの人たちの性格や、友達に対する接し方や過ごし方も大きく異なることも知らずに。