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猫の詩
猫に見送られてランチに焼肉に行きました。いつも通り。だから、家に帰っても、いつも通りに猫がお迎えしてくれるもんと、信じておりました。
どうやら、昼間はお気に入りの場所で安眠をむさぼるのが好きな猫のマールです。
夕方が近づくと、肌寒くなってきたからか、はまたま、お腹が空いてきたからか、長い尻尾を優雅に舞わしながら帰ってきます。
ところが、一昨日は帰ってきません。いつも通りが壊れると、いつも通りに依存しているわたしは脆いもんです。
と言いますか、依存している自分に気付かされて、あっけなく崩壊です。
焼肉のあとに、マールの好きな餌やおやつをしこたま買い込みました。女店員さんには「開封していなくても返品はできません」と念を押されましたが、いつも通りにマールが食べると一月で消費する量です。
「大丈夫ですよ」と返事をした自分の声が、耳の奥で木霊のように響きます。
それでも、たとえ遅くなっても夜の7時とか8時には帰宅するマールです。まだ5時間もあるので大丈夫!と思っていました。
ところが、一向に帰ってきません。でっかい声で「マール!」と猫の名前を呼びますが、返事がありません。
スマホの灯りを頼りに、控え目に猫の名前を呼びながら近所を廻りました。でも、音沙汰なしです。こうなったら手の打ちようがありません。
NHKの「プロフェッショナル」に夏井いつきさんが出演していたので、気を紛らわそうと見ていましたが、気持ちが入りません。
もし、夜中にマールが帰ってきた時、部屋の灯りが消えて、真っ暗だったら失望するかもしれません。
入り口のカーテンを半分開け、部屋の灯りをつけて蒲団に入りました。
猫のマールがいつも通りに帰ってきて、あの入り口の右隅に立って、中を覗き込むことを信じていました。
でも、朝になっても帰ってきません。何とも切ない気持ちで詠んだものです。
かじけ猫蒲団恋しや吾を拝む
かじけ猫蒲団入りたし爪を出す
吾も猫も夜待ちわびる干蒲団
季語は「かじけ猫」です。でも、どうやら「蒲団」も季語のようです。
「蒲団」は四季を問わずに使うそうですが、特に防寒用として重宝される冬の季語らしいです。季重なりですが、猫を懐かしんでいるということで、無視です(笑)。
寒夕焼頭の丸み愛し猫
季語は「寒夕焼」です。
見事な夕焼けなのに猫がいません(涙涙涙)。マールの頭は手のひらにすっぽり納まる程の小さな球体です。
猫の頭の丸みが愛しいなあと、空っぽの手のひらが寂しい気持ちを詠みました。本当は、手のひらが猫の頭の丸みを覚えていると詠みたかったのですが、うまくいきませんでした(苦笑)。
凍夜の迷い仔喉名を覚ゆ
季語は「凍夜」です。
これまた無理のある俳句です。凍てつく夜に迷い仔の名前をあまりにも呼ぶもので、とうとうわたしの喉は仔猫の名前を覚えてしまいました。というつもりです(笑)。
でもね、わたしの俳句の先輩によりますと、喉を擬人化するのは無理があるので、推敲の余地ありとの意見でした。
どうしても、あんまり猫の名を呼びすぎて、すっかり喉が猫の名を覚えてしまいましたという、擬人化に拘っていました。
ということで、俳句の先輩の推敲された句を参考にして、次の俳句がファイナルアンサーとなりました。
凍つる夜迷い猫の名繰り返す
凍てつく夜、迷い猫の名を何度も繰り返して呼びましたという場面のみ句にして、あとは読み手に託します。
風花のふわり猫の毛に降り立つ
季語は「風花」です。
辺りが明るくなって、また、小さな声で猫の名前を呼んでみました。すると、高い所から猫の声がします。
「マール?」
なんと、我が家から十メートル足らずのお隣さんの屋根にいるではありませんか(号泣)。
呼ぶと屋根からカーポートまで降りてきましたが、そこから降りられません。仕方がないので、近くにあった脚立を拝借、猫を強引に引きずり下ろしました。
とても風の強い朝でして、宙に舞う埃が風花みたいに猫の毛に降り立ちました。それともわたしの涙だったのかしら。
猫戻る泣き顔隠し賀状書く
季語は「賀状書く」です。
猫が帰ってきて、いつもの通りの一日が始まりました。素っ気ないマールに泣き顔なんか見せてなるものかと、いつもの通りに賀状を書きますよ!と強がってみました。