マールの意気消沈
買い物から帰ってきたわたしに走り寄る猫。我が家のマールだ。
尻尾に枯れ葉をつけて、いかにも「わたし、困ってます」状態で、笑っては彼女に失礼と思うのだが、蓑虫みたいな尻尾のマールには笑うしかない。
「なにやってんの?」と、冷たいお母さんの対応に(うちのペットクリニックでは飼い主をお父さん、お母さんと呼ぶ)、目を合わさずにささやかな抵抗。
尻尾に触るとギャーギャーと騒ぐが、そんなことに構っていられない。ベチャベチャした透明の粘着剤で無味無臭だ。
とりあえず、風呂場に拉致し、シャンプーを3回するが取れない。仕方ないので、尻尾の毛を切ろうとするが、抵抗著しく断念。
このまま様子見でもいいが、猫は舐める癖があるので、もし体に害のある粘着剤だったら大変だ。
時刻は14時30分。急いで掛かり付けのペットクリニックへ電話し、速攻で行くと伝える。
とは言え、マールのシャンプーで自分も汗をかいたので、大急ぎでシャワーして、嫌がるマールをゲージに押し込み、車を走らせた。
・・・・・
いつ来ても、ここのペットクリニックは繁盛していて、妙に平和な気持ちになる。
15分ほど待つと呼ばれた。6番診察室で待つこと数分。すぐに若い獣医師さんが来た。
戸外に出していることを責められるかな?と思ったが、「そうですか」で終わり、ホッ。
「預からせてもらい、出来るだけのことはします」
小さな体のマールから想像できない、野太い鳴き声が処置室から聞こえてくる。さっきの獣医師さんの腕には、幾筋もの引っ掻き傷があった。体を張って仕事をしてるんやなあ、と胸が熱くなった。
30分ほどしてマールが帰還。観念したのか、 鳴き疲れたのか、ゲージに静かに収まって、動かない。尻尾が小さくなっている。
「油を油で落として、何度かシャンプーしました。毛もカットさせてもらいました。家にベビーパウダーがあればつけてください」
確か、夏場に使用したベビーパウダーが残っていた筈。それでベチャベチャもマシだし、葉っぱもゴミもつかないだろう。
処置に5,500円。高いか安いかは分からない。でも、ベチャベチャなマールにすり寄られることを考えると安いもんだ。
怒ったマールを車内で放すと、シートをガシガシとやるので家までゲージに確保。
家に戻ってから解放。怒りに任せて、家中を走り回るかと思いきや、ソファーに大人しく座って俯いている。
まあ、半日のうちに嫌いなシャンプーを少なくとも5回はやられたマール。もし猫の運勢占いがあれば、「今日、もっとも運勢の悪い猫は、、」だろう。
意気消沈したマール。夕方の見廻りにも行こうとせず、わたしの横で動こうとしない。
マールなりの内省ポーズだろうか。