「人の役に立つロボット」
女房が浮気しているのは、絶対に間違いないのに!あいつは、昔から尻尾を出さないし、妙にアタマの回る女だ。
チクショウ!
どうやったら女房の浮気の証拠を掴めるか、考え出したら頭が冴えてきて、眠れない。
モンモン
仕方がないから、暗いキッチンで珈琲を飲むことにした。出来ることなら、豆から挽いて珈琲を飲みたいけれど、ゴリゴリ音を立てて女房を起こすと、また嫌みを言われる。
確か、お歳暮か何かで貰ったインスタントの珈琲があったから、それで我慢しよう。
ケトルを火に掛けて、お湯を沸かす。女房が買ってきた真っ赤なケトル。そもそも好みの色もわたしとまったく違う。わたしは青色のケトルを買いたかった。その方がキッチンの雰囲気にも合う。
何よりも、旦那の意見を尊重すべきだろう。あいつにはセンスの欠片もない。
チクショウ!
イライラしながらお湯が沸くのを待つ。
湯が沸いたことを知らせる甲高い「ピー」が鳴ると女房を起きるので、火を止めるタイミングを図る。こんな気遣い、女房には絶対に無理だと心のなかで貶める。
ふと壁際にある掃除ロボットが目に入った。
俯いて掃除をすると頭が痛くなる、なんて、意味不明は理由で女房が買ってきた代物だ。
「AIが搭載されていて、貴方よりも賢いし、役に立つのよ」なんて、ほざいていたっけ。
女房は掃除ロボットをまるでペットみたいに可愛がっている。「クリちゃん」と名前まで付けていた。
ふと、明暗が浮かんだ。そんなに賢いのなら奴の「クリちゃん」を利用してやろう。
・・・・・
すっかり珈琲のことは忘れて、作業に没頭。久しぶりに集中力が働いて、何だか清々しい気持ちだった。
気づくと、時計は4時を指していた。冷たいベッドに潜り込んで、思いきり伸びをした。
子どもの頃に落とし穴を作って、誰か落ちないかと待ったときみたいな興奮で、とうとう寝つけなかった。
朝6時、いつもより早めにリビングへ行き、朝食の準備をする女房を眺めながら、新聞を広げた。
「男って、いいわね」
そんな嫌みが聞こえた。だが、嫌みが言えるのもあとわずかと考えると、女房には好きなだけ嫌みを言わせてやろうと思った。
まあ、最期の女房孝行というもんや。
・・・・・
取引先とのトラブルで、すっかり遅くなってしまった。晩飯の時間(女房ルールで、毎晩、7時半に晩飯と決まっているのだ)に遅れるとメールをしたかったが、取引先への謝罪中にメールは不可能だった。
帰宅途中で女房が好きな店でケーキを買い、足早に、でも、ケーキが崩れないように歩を進めた。
あれ?電気がついてない。
にわかに心臓がバクバクし始めた。もしかしたら、"まさかの衝撃的事実"が起きたのか。
キッチンの灯りをつけた。
女房が倒れていた。額には赤く縁取りされた小さな孔が空いていた。
その隣には、昨晩、細工した掃除ロボットの「クリちゃん」が誇らしげに停止していた。
「旦那さま。奥さまが男性の顔を脳内に思い浮かべましたので、ご命令通り、消去いたしました。」
そう言って、1枚の写真を吐き出した。
その写真には、笑顔のわたしの顔とわたしの好物の肉じゃがが写っていた。
note仲間さんが"掃除ロボット"でショートショートを書いていたので、わたしも真似して書いてみました。初挑戦のため、突っ込みどころは満載だと思います。甘んじて受けますので、どしどし突っ込んでください😏