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馴染む

「赤のトートバッグ、馴染んできたね」

昨日の雷雨、暴風雨の悪天候が嘘みたいな    上天気。まだ暗い早朝、車を飛ばして工房に向かった。

距離にして60km、運転好きなわたしには、ちょうどの距離だ。

右側には太平洋がある。次第に明るくなり、朝日が昇ってくる。

テトラポットだらけの海岸線は、南海トラフ対策とは分かっている。でも、等間隔に並ぶ津波タワーを横目に見ながら、いくら避難をしても、あのテトラポットが襲ってきたら、「一溜りもないなあ」と思う。

津波で流されるのも嫌だけど、テトラポット直撃も嫌だなあ。

浦戸大橋を渡り、しばらく道なり。いつものコンビニに立ち寄り珈琲を買う。

カクっと左折、田んぼの中を北東へ向かう。ひたすら真っ直ぐ、道なり。土讃線の手前で右折、アンパンマンミュージアム方向へ車を走らせる。

アンパンマンミュージアムの前には道の駅、韮生の里がある。そこで500円の弁当購入。

安くてボリュームもあるので人気があって、帰路で立ち寄っても売り切れなので、行きで買うのが鉄則だ。この弁当は、昼食&夕食となる。

どんどんと山道に入っていく。お山の工房に通い始めた頃は桜の季節だった。今は紅葉が散り始めている。

途中、昨夜の大雨による土砂崩れがあった。軽自動車はガリガリと腹を削りながら、どうにか現場を通りすぎた。

8時55分。工房に到着。

今日から12月。みんな忙しいのか、参加者はわたし一人で工房を独占だ。

師匠と師匠の奥さん、そして先月、生まれたばかりの娘ちゃんがいる。あとは犬が2匹、猫が一匹、鶏は何羽か知らない。たまに犬に喰われるらしく、定かではないようだ。

今は、新潟在住の弟の家族全員に(頼まれてもないのに)サコッシュを作っている。しかし、義理の姉であり叔母である、わたしの手作り革バッグを貰って無下にする、そんな勇敢な奴はいない。

それに、革の材質がいいので、気に入らない筈がない。

3時間。楽しい時間は早い。

甥のサコッシュの仕込みができたので、後は家でチクチクと縫ってくる。灰緑の渋い色のサコッシュ。

黒はずっと黒だ。でも、それ以外の革は時間経過とともに変化するので楽しみだ。まるでペルシャ絨毯が踏まれることで色がより良く成長するみたいに、革は経年美化する。

真っ赤なトートバッグを背に担ぎ、お土産に貰った柚子の実の入った紙袋を持ち上げて、「ありがとうー!また、来週」と挨拶する。

すると、「また、よろしくね!それにしてもトートバッグが馴染んできたね~」と。

革製品って、使えば使うほどに持ち主に馴染んでくるみたい。革が柔らかくなって、体に添ってくる。

昔のコルセット、といっても、実際に使ったことはないし、今も締めつけは大嫌いだが、シュミーズの上に着装されいた。

コルセットには、乳房を高く、美しく、持ち上げるために内部に鯨の髭が入っていた。

その鯨の髭は、人間の体温で温まると、柔らかくなったらしい。

たとえバッグやコルセットに形を変えても、彼らの皮も髭も人間に馴染んで、動物である人間とともにあるように思えた。

まあ、人間のエゴ、いい迷惑だろうけど。