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第62回:ラベリング理論と長谷川等伯:本物を見抜く力

 私は、絵画が「とてつもなく」好きです。 好きな理由は、色々あるのですが、今日はその理由に迫る話を1つ。

 まずは、ラベリング理論の説明から、 ラベリング理論は、1960 年代にシカゴ学派に属するハワード・ベッカー(Howard S. Becker)らによって提唱された理論です。一言で言えば、

「人は「逸脱者」をその人の行動の結果ではなく、他人が見た印象を聞いてレッテルを張る(ラベリング)ことによって人を「逸脱者」と判断する」


 というものです。さてはて、私たちにも身に覚えがあるのではないでしょうか?

 金髪で中学校に登校してきた人間を、他人が決めた価値観に沿って不良と決めつけ「あいつはダメ」だと判断したこと、ありませんか?

 また、会社の上位のものが「あいつはダメだ!」と言ったら、あった人もないことを「ダメな奴」と決めつけたこと、ありませんか?

 これが、「ラベリング理論」です。実は、絵画の世界でも似たようなことがあります。今日はそんなお話。

 日本ではルノワールをはじめとした印象派が人気です。 ルノワールのことを「皆がいい」と言ったラベリングのおかげで、印象派の絵画展が開かれると普段「美術館」に来ないような人が美術館にあふれます。

 そして一夜漬けで仕入れた知識を恋人に「ドヤ顔」で話す男が美術館にあふれるのです。(興味がないにもかかわらず、男の話を笑顔で聞いている女性というのは「本当」にすごい!といつも感心していますが、、、)

 では、贋作はどうでしょうか? 例えそれが美しい造詣や、美しい色使いであったとしても、人は贋作をまるで価値のないもの、まるでゴミをみるような目で見ます。挙句の果てには、「贋作やレプリカには、本来の絵が持っている力がない。」とか素人がいっちゃうわけです。

 これもラベリング効果の一つなのですよね。「贋作は悪いものだ、価値がない」なんて誰が決めたのですかね? そもそも、そんな事を言っちゃっている人に絵の良し悪しが分かるスキルがあるのか?といつも心の中で思っています。

 では、下の絵を見てください。 この絵は、日本画家の大家「長谷川等伯」の「松林屏風図」です。


長谷川等伯の松林屏風図

 この絵、どう思いますか?美しいと思いましたか? でもこの絵、左の隅に押してある「落款(画家のサイン)」が偽物で贋作なのです。あ、今騙されたと思ったでしょう? 贋作を真作だと言って紹介しやがって!と、、、

 そうこの絵、実は「落款(作者のサイン)」が偽物なので長い間「贋作」扱いされていたのですが、今は「真作」だと言われています。 つまり、筆遣いや絵の濃淡は、間違いなく長谷川等伯のもので間違いないが、「落款」が無く高く売れないと思った後世の心無い人が書き足したというのが今の通説なのです。

 そしてこの絵は「贋作」の二束三文の扱いから一転、「国宝」に指定され「東京国立博物館」に現在展示されています。 そしてそれを非難していた人々の見る目がどう変わったかは、言うまでもありませんね。

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