コンテンツ作りにも大事な「ゴールへの嗅覚」
オリンピックの男子サッカーに首ったけである。
ちょっと前にオリンピックへのネガティブな感情を書いたくせに、予選から全試合ぶっ通しで見続けている。二枚舌もいいとこだ。
先日行われたスペイン戦は120分テレビにかじりつきっぱなしだった。
日本代表がゴールへ攻めていくと大声を上げながらテレビへ声援をぶつけていたし、延長後半ギリギリで相手選手にゴールを奪われた際には、ショックのあまり数分ほどソファでうなだれてしまった。
自国大会でのメダルを確定させ、万全のメンバーで決勝に臨む姿は見たかったが、明日行われる3位決定戦での勝利を期待して、その結末を見届けるとしよう。
ワールドクラスのストライカーは、なぜすごいのか
今回の大会でも一部で指摘はされていたが、日本サッカーがあとひとつ世界で勝ちきれないのは「フォワード/ストライカーの差」が大きいといわれている。
試合で勝つためには、当然相手よりも多く点を取る必要がある。
したがって、高い得点能力を持った前線の選手を擁するチームは、それだけで勝利の可能性がグンと上がるのである。
優れたフォワードに求められる要素はいくつかあるが、その中で特に重要視される能力に「オフ・ザ・ボールでの動き」が挙げられる。
オフ・ザ・ボールとは「ボールから離れた状態」という意味であり、試合中ボールに直接関与していない場面を指す。
この「ボールを持っていない場面」の動き方が、トップ選手とそれ以外を分けるともいわれているのである。
90分の試合の中で、一人の選手がボールを持つ時間は平均2分程度だと言われている。
つまり、サッカーの試合中、選手はほとんど「オフ・ザ・ボール」なのだ。
では、選手たちはその時間を使って何をするか。
より有利な条件でボールを持つために、動きまくるのである。
相手選手の死角に入ったり、あちこち走り回ることで守備陣形を混乱させたり、自ら囮になって相手選手を引き付けたりすることで、相手の隙をどうにかして作りだし、そこを一気に攻める。
いわゆる「ワールドクラス」と評されるフォワードの選手には、このオフ・ザ・ボールの動きが非常に優れた選手が多い。
ディフェンダーを常に観察し、つけ入る隙を見極める。
オフサイドラインをギリギリで破って、相手守備の裏をかく。
こぼれ球や相手のミスに素早く反応できるよう、最適な位置取りをする。
そして、一瞬のチャンスを見つけるや否や、そこを逃さず一撃で仕留める。
世界で活躍するストライカーはまさに、一撃必殺の狩人だ。
優れたストライカーの資質は、優れたコンテンツメイカーの資質でもある
良いフォワードに求められる条件を調べていた時、ふと思った。
「あれ?これってコンテンツ作りにも当てはまるくね?」
趣味で文章を書いている身であるから、僕もいちおうはコンテンツの作り手となるわけで。
やはり自分の作ったものがバズったりとか、大勢の目に留まるのに憧れちゃうわけである。
ライターの古賀史健さんは、価値あるコンテンツの条件として「情報の希少性」「課題の鏡面性」「構造の頑健性」を挙げている。
自分なりにかみ砕くとすれば、「多くの人が関心のあるテーマについて」、「誰も触れていないような内容を」、「緻密に計算して」作るということ。
この3つの条件を実現させるプロセスと、すぐれたフォワードに求められる資質の間には、多くの共通点があると僕は感じた。
たとえば、課題の鏡面性を考える時。
多くの人が注目しそうな話題を考える時、世の中全体の流れを見る必要がある。
今何が起こっていて、次に何が起こりうるのか。それを見極める力が要る。
そしてその力は、どこにポジションをとればいい場所でボールがもらえるのか、ピッチを常に観察しながら最適な位置取りを模索するサッカー選手の姿とマッチしないだろうか。
特に最近は、情報の移り変わり、流行り廃りのサイクルがえらく高速化している。
昨日のトレンドを、明日には誰も話題にしていないなんてこともザラだ。
そんな中で、新鮮な話題を新鮮なうちに仕留める力、関心の流れにいち早く気付き一気にカタチにする能力も重要である。
こうした「トレンドへの嗅覚の鋭さ」はまさに、ゴールを狙うストライカーのそれだ。
世の中を俯瞰で見て、盛り上がった話題にいち早く飛びつけたとしても、肝心のコンテンツの内容がお粗末では興ざめだ。
完璧なポジショニング、完璧な飛び出しを見せたとしても、最後のシュートを明後日の方向に飛ばしてしまったら元も子もないだろう。
捉えたチャンスを確実にものにするには、高い精度でフィニッシュに持ち込めるかが肝心だ。
これをコンテンツ作りに当てはめるとすれば、どんな話題にも対応できるように普段からインプットを習慣にするとか、分量が多くなっても形にできるような構成力を身に着けておくとか、って辺りだろうか?
とにかく、優れたコンテンツメイカーとサッカーのフォワードは、根底で求められる資質が驚くほど共通しているのだ。
何よりも大事なのは「泥臭さ」
ここまで、作り手とフォワードに求められる能力の共通点を挙げてきた。
けれども、僕が思うに一番大切なのは「成功するまで何度でも試行する姿勢」ではないだろうか。
オフ・ザ・ボールでの行動は、その大半がボールと接点を持てずに終わる。
いわば「無駄な労力」になってしまうわけだが、それでもほとんどの選手は試合を通して走ることをやめない。
それはなぜか。
100回中99回が「無駄走り」に終わったとしても、ボールを持ったその1回で決定機を作りだすためである。
一部のフォワードは「90分のうち5分しか仕事をしない」といわれる。
けれど、ワールドクラスの選手はその5分のうちに、得点を決めてしまうのだ。
そしてその姿勢は、コンテンツ作りにおいても同様だ。
人は他人に興味がない。作ったものは驚くほど読まれないし、見られない。
それでも、100回のうち1回の大当たりを狙って、普段からチャレンジを続ける。
なんやかんや言って、それが一番大事なことだと思うのだ。