〈読書記録〉短歌と散文のマリアージュ
くどうれいん × 東直子
2人の歌人が、短歌と散文でつなぐ、みずみずしい歌物語。
◇ 本の中身
29歳の「みつき」は、この先の人生を思うと、途方もない気持ちになる。こちらが、くどうれいんパート(黒文字)。
謎の存在「ミメイ」は、おなじ街を漂よっている。こちらが、東直子パート(青文字)。
短歌の背景を語るように散文が綴られているので、短歌がよくわからなくても楽しめる。
みつきの物語は、たまに現れる元カレ「ハギノ」の言葉が刺さり、マッチングアプリで出会って結婚することになる相手の返しが、いちいち男前で気持ちいい。
一方のミメイは、空を漂よう綿毛のように、風に流れてふわりふわりと楽しそう。雨に打たれると嬉しそうに、つかみどころのない不思議な存在として関わってくる。
言葉の中をたゆたうような、こころがふわふわするような。眠れない夜に穏やかな時間を共に過ごしてくれます。
◇ 主観
短歌だけの詩集だと、まったくの初心者(私のこと)には難しくてわかりません。散文による背景の説明があることで納得でき、物語を読んでいるように楽しめます。
短歌がショートショートのように繋がっているのが面白くて、おかげで物語もわかりやすいです。
特に好きな短歌を残します。
太鼓をやる人は、元気ではつらつとしていて眉毛が太い。私は笛をやる人だなと思った。やるせなさそうな顔が、夜の窓に反射していました。
濡れた土が乾いて色を変えていくように、雪がしんしんと降り積もり色を隠すように、時間の流れが目に見えると安心します。
散文の方にある。「おれたちはもうすこし、こうゆう、柿を剥くような時間が必要なのかもしれない」と彼は言った。という一文。
婚約者から式を先送りにしようと告げられた後に言われたら、途方もない気持ちになります。夫婦だったら穏やかな日常の1ページなのにね。
読書好きな中学生の姪にプレゼントしたら、喜んでくれるかな。
左右社:2023.12.6
四六変形判:144ページ