削っては削り・・・ 〜「省略の美」とビジネス〜

 私の好きな言葉に,「省略の美」があります。茶道の動画で出てきた言葉で,「一連の動作から無駄を剥って剥って,必要なものだけ残すことに美しさがある」とされています。

 他の人に何かを伝える(表現する)際,やはりシンプルでないと伝わりづらいです。あまりにも情報量が多いと,どんな本質を表現しているかが読み手にはわからないというケースが起こり得ます。

 レオナルド・ダ・ヴィンチは,「シンプルさは究極の洗練」という名言を残しています。スティーブ・ジョブズも,「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい」「最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ」という名言を残しました。熱心な仏教徒でもあったジョブズは,製品づくりやプレゼンテーションにおいてシンプルさを重視していましたね。

 この「削ぎ落とす作業」というのは,創作において不可欠だと思います。成功する人は,目には見えないたくさんの要素を削ぎ落とした上で,ひとつの成果を作り上げています。量に物言わせた過程から,削っていく作業を経た成果というのはクオリティが高くなると思いますが,その逆は考えづらいです。

 ビジネスの世界でも,「削る(ここでは「捨てる」)」過程が重要となる場面があるようです。

 戦略コンサルタントが書くノートは,ノートを取り終わると,もうそこに課題解決の戦略が見えていると言っても決してオーバーではありません。
 なぜ,そんなノートがとれるのか。
 最大の理由は,「捨てる技術」を最高水準で身につけているからです。彼らは,あれもこれも重要に見えることが100あるような場合にも,最重要な「1」をただちに見きわめ,その「1」にフォーカスすることができるのです。
 そして,残りの「99」はバッサリ捨ててしまいます。

出典:高橋政史(2014)『頭がいい人はなぜ,方眼ノートを使うのか?』,かんき出版。
 何でもかんでも企業が伝えたい情報を詰め込んで許されるのは,セールのチラシぐらいでしょう。行き過ぎた押し付けや過剰な情報量は,かえって見る人を不愉快にさせかねません。
 伝えたいことはいっぱいあると思いますが,削ぎ落としまくることが大切です。削って削って削りまくって,残ったものだけが伝えるべきものです。

出典:池田純(2016)『空気のつくり方』,幻冬社。

 やはり,「削る(捨てる)」過程なしに,良い答えを導くのは難しいようです。

 以上のことを日本人的感覚で表現した言葉こそ,「省略の美」です。シンプルであることが重要なのはわかっていましたが,それを日本人的感覚で表現する言葉が,茶道の世界に存在していました。

参考資料
 高島宗一郎(2018)『福岡市を経営する』,ダイヤモンド社。
 田外孝一(2016)『スティーブ・ジョブズ 自分を超える365日の言葉』泰文社。
 高橋政史(2014)『頭がいい人はなぜ,方眼ノートを使うのか?』,かんき出版。
 池田純(2016)『空気のつくり方』,幻冬社。
 https://media-trendy.com/stevejobs-proverb/(2021年8月7日アクセス)
 https://www.youtube.com/watch?v=KfDTuNyup9Y(2021年8月7日アクセス)

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