スタートアップ経営者になった決断とそこまでの道のり
株式会社TAIANというブライダル業界に特化したSaaSを展開するスタートアップの経営者をしている村田磨理子と申します。
今日は私のキャリアを中心にお話ししたいと思います。
現在の私の交友関係は、スタートアップの経営者やベンチャーキャピタルの方々が中心となっていますが、この界隈では自分の職歴が稀有であることに気付かされます。
私は金融やコンサル会社出身ではなく、事業会社を2社経験した後に、ご縁あって起業することになり、その後にさらにご縁がありエクイティ調達をすることを決断し、いわゆるスタートアップ経営者となりました。
最初からIPOやM&Aを目指した創業でなかったからこその、調達活動・事業や組織づくりにおける苦労したことや逆にアドバンテージに感じていることもあり、自分だからこそ見える景色を、今後発信していきたいと思います。
これまでのキャリアと嗜好性
職歴と経験業務など
- 株式会社リクルートスタッフィング(4年強)
エンジニア派遣部門で営業
新規事業企画・運営(採用企画、採用)
採用媒体・エージェント折衝、Webマーケティング、採用管理システム導入
- 株式会社ギブリー(2年弱)
エンジニア育成・評価ツール「track」(現:Track Test/Training)
カスタマーサクセス /リニューアルセールス立ち上げ
規約・顧客情報の整備、新プラン導入、契約継続の顧客対応、業績ヨミ管理
学生向けハッカソン「JPHACKS(ジャパンハックス)」運営サポート
1社目、2社目を通じて社会人として大きく成長させていただきました。
上司や同僚の方には感謝ばかりです。
キャリアの軸としては、エンジニア職に特化したHR領域(以降、"エンジニアHR"とする)。エンジニアHRにおける「日本の失われた30年を取り戻すために、日本で遅れてしまったIT化を促進させるべくソフトウェアエンジニアの地位向上を行う」という価値観に心惹かれるものがあり、会社員時代はこの領域に一貫して携わってきました。
自分が新卒で見ていた2014年のソフトウェアエンジニアの市況から、多数の事業者がエンジニアHRに取り組んできたこともあり、10年経った2024年では日本における状況は随分変わりました。年収1000万円の新卒エンジニアの方が出るようになったり、義務教育でプログラミングが授業として採用されたり etc…。
これは、「エンジニアHR」という領域が生まれたことで、日本の新たな産業基盤の第一歩ができたことだと感じております。新たな領域へのチャレンジが、日本の産業に寄与していく過程に少しでも携われたというのは嬉しいものです。
会社員時代に感じていたこと、そして退職
エンジニアHRの領域は楽しく、基本的に仕事が大好きなので前向きに取り組んでいました。ただ、自分の実力や経験年数の不足もあり以下のことがずっと気に掛かっていました。
組織や採用課題についての強いこだわりがあるにも関わらず、自分の職位では何も変えられないということ
自分の仕事が社会インパクトを持てているのか、今後昇進したとしても持てるようになるかという観点
サービス業界(エンジニアリングで大事なロジック重視の業務と180度違うと思われているもの)等、エンジニアリングの力が届きづらい領域の存在
論点の異なるこれらに対して、圧倒的な自責で向き合いたいと考えるようになりました。であれば思い切って一度0から全てをつくりたいと思い、会社を退職しました。
当初は店舗運営とテクノロジーを掛け合わせたコミュニティ運営のビジネスなどを想定していましたが、コロナウイルス感染拡大に伴いそのアイディアは手放し、事業アイディアを多数つくっては検証してみるという日々が始まりました。
副業起業のような形で法人登記
創業当初は、3名(私、デザイナー、エンジニア)のメンバーで創業をし、適宜エンジニアを複数名育成しながら5名程度で活動をしていました。
前職ではハッカソンの運営をしていたこともあり、事業の立ち上げというチャレンジを自分もやってみたいと考えていました。周囲の技術力と自分ならではの視点を掛け合わせ社会に還元できる装置を作れるのではないかと。
プロダクトをある程度育てつつキャッシュエンジンにしながら、また新たなプロダクトを作っていく…、社会貢献と事業作りをすることで、知的好奇心を満たしながら自分の力を試していきたいと考えていました。
別の会社からの組織立ち上げメンバーとしてのお声がけもいただいたこともあり、他の主業務をメインにしながら実行していくイメージでした。仕事と事業づくりが大好きなので、今思えば趣味の延長線上だったと思います。
現事業(ブライダルSaaS)の立ち上がり
多数の事業アイディアからいくつかPoCを始めた結果、今の事業のタネに出会いました。
最初は、私以外全員副業でしたので、夜間や土日で集まって事業を進める日々。毎週別の場所で集まって議論したり、モクモク作業をしたり…。
途中で毎週場所を予約するのが面倒になり、仲良くなったBarのオーナーに昼の場所を間借りして事業の0→1に没頭していました。
しかし、それだけでは生活もできないので毎日プロダクト開発と顧客の要望を聞く自社サービスの活動と並行して、スタートアップ複数社の手伝いや、仲良くなった飲食店のアルバイトをして過ごしていました。
そのような生活を3ヶ月続けたときに、事業に対して同じ熱量を持った仲間と働きたいという欲望が湧き上がってきました。
コロナ禍で日程変更の対応に困っていたり、得体の知れない新型コロナウイルスに対して「非対面非接触」の何かで顧客を安心させたいというブライダル業界のお客様からは毎日切実なお問い合わせがくるようになり、時を同じくして、業務委託で関わってくれていたメンバーから「社員になりたい」という声かけをもらったり、大学時代の友人からデットファイナンスの営業を受けたり…
本格的に法人化していくことを考えはじめました。
そこからは、デットファイナンスをはじめとする、人を雇う企業体力作りに向けての準備に半年ほど注力しました。
ビジョンに共感し、最低賃金より安いお金でビジョン共感で手伝っていたスタートアップと、友人の出来立ての会社に別れを告げ、収入をまずは自社の預金にいれるべく、とある勢いあるスタートアップに全力でお手伝いをさせていただくことになりました。
自分の全スキルと知識、人脈をぶつける覚悟で週6日以上働きました。
(あらゆるオペレーション構築を行い、オペレーションの立ち上げが得意な自分に気づいたのはこの時です。スタートアップではどこも課題なのだな、ということも新たな発見でした。)
初回デットファイナンス以降の歩み
ソフトウェアだけでなくAIの受託開発などでスタートアップの支援を行いながら、自社サービスの開発を続ける毎日。そして、ありがたいことにコンサルティングと受託開発で会社に目標預金額を達成し、デットファイナンスを実行することができました。
お手伝いしていたスタートアップでの受託開発したシステム運用も乗ってきたため、受託や外部の仕事を止めることを考え始めました。
共同創業のCTOと最初で最後(?)の激論
忍耐強く、いつも私のわがままを聞いて全力で一緒にやり切ってくれるCTOと経営方針で意見が大きく分かれたのは、以降も含めてこの時だけです。
「自社サービスに特化するために、ブライダル業界以外の受託開発をやめよう」という私と、「自己資金を担保するべきだ」というCTO。
タイミングが大事。コロナ禍で傷ついているブライダル業界への全注力を、今しなければいつするのだ!ということで、結果、私の意向で進めることになりました。デットファイナンスでは足りない額をエクイティ調達して、大きく事業を伸ばすことを決意。
エクイティ調達に踏み切るのは、かなり勇気がいりました。伝え聞いていた投資家が入ることによるデメリットばかりを気にしていたからです。
そんな中、幾度も調達を経験していたお手伝い先のスタートアップのCEOに、「磨理子さんには、VCという存在はむしろ経営する上でいた方がいいのではないか?人に恩返しをするのがモチベーションなのだから、ステークホルダーを増やすことでもっと経営が面白くなるんじゃないですか?」といった言葉をもらいました。その言葉が自分の背中を押してくれることになりました。
そこから、私の最高の起業人生が始まったのは言うまでもありません。
(これまでのエクイティファイナンスと、VCの皆さんとのエピソードはまた別の機会に。)
ブライダル業界への貢献が私たちのできる社会貢献
コロナウイルスは、他業界が迎えた危機をブライダル業界にももたらしていました。コロナ禍の経営難を乗り越えた企業には、その間の離職や採用ストップに起因する人手不足が次の大きな経営課題となっていたのです。
2030年には400万人の人手不足が来ると言われているサービス業。ブライダル業界も例に漏れず人手不足です。
業界の課題はそれだけではありません。
コロナ禍で顕在化した、新しい価値観・IT化対応への遅れです。これは単にITによって業務改善をするということだけではなく、業界の方々が愛する「お客様(=結婚式を挙げるカップル)」への価値提供が、他業界のITを駆使した当たり前のカスタマー体験に遅れをとってしまっていること。コロナウイルスへの感染リスクを最小限にするため、オンライン打ち合わせに対応する式場は増加しましたが、そのオペレーションの基本は十数年続いたオペレーションが元となっていて、その一部をオンラインに置き換えただけという状態。結婚式の準備中、もしくは挙式を終えたカップルからは、結婚式場探し〜結婚式を終えるまでのプロセスに何かしら負を感じているのが、自社アンケートからも見えてきました。
株式会社TAIAN プレスリリース「結婚式場の営業手法に関するアンケート調査結果(2022年2月)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000063181.html
ブライダル業界に従事する方々は、目の前のお客様の大切な一日を支えるため、自分たちの労働時間を犠牲にし、圧倒的質を担保することを厭わない方たちです。
私も結婚式からは今後の人生の糧となるパワーをもらいました。自らの過去と向き合い、未来を見据える一歩を踏み出すことができたからです。
私は、さらに結婚式という機会を経て、人生が好転しました。長年心の奥深くで求めていた人生目標である、「社会へ大きく貢献しないと死ぬに死ねない」という欲求に向き合うことができたのも、この結婚式で自分を見つめ直す体験が始まりでした。
最後に
これまでの起業〜経営活動を通じて、向き合ってきたブライダル業界を広く捉え、「人と社会をつなぐこと」にこれからも真剣に向き合い続けます。ブライダルSaaSには全力投球のまま、さらに多くの方へ祝うこと、つながることの大切さを伝えるため挑戦の幅を広げていくつもりです。
この大きなビジョンを達成するには、大きな会社になることを目指さないといけないと本気で考えるようになりました。
これからも、圧倒的成長を個人としても組織・事業としても継続してまいります。
株式会社TAIAN 代表取締役CEO 村田磨理子