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陰翳礼讃
今見ている世界の半分は陰でできている
模写を繰り返すうち、顔の半分は影でできていることに気がつく。
たった数十センチの面積に、ハートや星やあらゆる形をした陰が浮かび上がってゆく。
手と対象を目が行ったり来たりするうちに今まで見えなかったものが見えてくる。それはおなじ曲を何度も聴いていると、最初は意識にのぼらなかった低音が頭に響いてくるのに似ている。
谷崎潤一郎はかつて描いていた。
羊羹は闇を覗き込んだようなとろりとした陰を拵(こさ)えている。
吸い込まれそうな漆黒を抱えているのは、なにも羊羹だけではない。
眼の前に光があたるとき、おなじ分量だけ窪みが生まれ、そこが陰翳の棲み家になる。