#10 バラスト水、それはありがた迷惑な旅客。/コトノハーバリウム
狭く資源の乏しい島国の日本に住む私たちは、貿易によってそれはそれは多大な恩恵を受けていることは言わずもがなである。
日本は島国なので、航空機か船舶によって商品を取引しないといけない。とりわけ、船舶による海上輸送はかなり大きな役目を果たしている。国土交通省海事局による統計(海事レポート/2015)によると重量では99.6%の荷物が船によって運ばれている。
日夜私たちのために働く船たちだが、実は何も積まずに航行することができないことを知っているだろうか。船というのは設計時点で荷物を積んだ想定で計算するので、万トン単位の積載がない場合仮定が大きく崩れてしまう。例えば、水に沈まなくなることで風を受けやすくなったり、軽くなることでカーブで船体が傾いた後に元の体勢に戻る力(復原力と呼ばれる)が低下してしまう。
しかし石油タンカーなど、日本が輸入するだけして輸出できない品目はどうしても船を空にして返さないといけない場合がある。そのときに役立つのが「バラスト水」である。
バラスト(Ballast)とは英語で積み荷を意味する。バラスト水は、積み荷がない(少ない)船が重しとして停泊しているところの海水をタンクに詰め込むことで正常な深さで航行できるようになるのである。
私はこの仕組みを聞いたときに、賢い!なるほどこれで万事解決だ、と思った。しかし、バラスト水にも大きな欠点が存在し、バラスト水問題として環境保護の観点で懸念されている。
「海水」とだけ聞くとどこも同じもののように感じるが、冷静に考えるとそうではないことに気がつく。それぞれの海域固有の生物が棲んでいる海水を運ぶことは、外来種を運んでしまうことと同義になってしまうのだ。
従来は、海運にかかる時間が長かったので、旅路の途中で大半の生物は日光や酸素、栄養不足で死んでしまうので気にされなかった時期もあった。しかし、経済的な要請もあり、速く運ぶことが求められ、それが可能になると微生物が生き残る可能性が高くなってしまったのだ。
例えば、日本のヒトデがオーストラリアのカキを食い荒らしたり、コレラ菌が運ばれてしまうなんて事例もあった。
そこで日本をはじめとした国が、バラスト水の処理装置の技術にビジネスチャンスを見出し、加熱処理など様々な角度でアプローチを試みている。
しかし、コストの面で未だ現実的なものは少なく、現在は排他的経済水域の外、つまりどこの国の海でもないところで海水を積み換えるというものが妥協点として行われている。
ということで、今回は「バラスト水」について紹介した。便利なものにも短所があることも感じたし、私のように知らなかった範囲にも環境問題が存在していることに気付かされた人もいるのではないだろうか。是非深く調べてみて欲しい。
ではまた。
(追記)2004年に採択されたバラスト水管理条約が、2017年から発効し始めました。古い記事をもとに記事を執筆してしまったが故に、有効な対策がなされていないと捉えられてしまうような表現になってしまったことをお詫びし、追記させていただきます。2020現在、バラスト水を放出するための基準が明記されています。(原則バラスト水を処理しなくてはならないが、既存の船で装置が未設置の場合は2024年まで排他的経済水域外であれば排出可)
これは私がインプットをしてよりよいアウトプットを生成するための燃料です。あなたの活力にできるような文章を生成することに尽力します。