「機動戦士ガンダム 水星の魔女」8話感想 Z世代に対応した展開の早い作品作りと日本人の読解力の低下
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6話の感想でミオリネに関して自分のやりたいことがなく親から自立できていないキャラという内容のエントリーを投稿したのですが、その次の7話で自分のやりたいことではなくてもやるべきことをみつけるという展開にそう来たかと唸らされました。今回の8話では勢いで通したコンペの会社の設立を進めていくということで、その中で流れたガンダム体操がファンの間では話題になっているようです。
アスティカシア高等専門学園には3つの専科があるということでこれまでパイロット科とメカニック科が活躍してきましたが、今回の話は会社の設立にあたって経営戦略科のキャラクターが中心になって動くものとなっていました。7話の感想でも触れたZ世代に向けてのこれからの時代の生き方でまず学生起業が提案されるのはいきなりだなあと思うのですが、ストーリー的にはそのほうが盛り上がりますしとりあえず勢いでやってみてそれが自分のやりたいこと、生き方に繋がるのは往々にしてあることです。また次代をつくるようなサービスが生まれない日本においてそれを生み出すために学生にチャレンジしてほしいというのは素直な大人の期待も込められているのでしょう。
作品の重要な一つの要素であるGUND技術ですが、株式会社ガンダムでは兵器として生まれたエアリアルに搭載されたGUND技術を本来の理想であった医療技術の方向で開発を進めていくことになりました。インターネットもドローンもお掃除ロボットも軍事目的で開発された技術を転用したものですし、人の命を奪うためのものである軍事技術として使用されているGUNDを人の命を救う医療で発展させていくというのは、人の命を奪うものばかり作っている親世代と違い自分たちは人の命を救うものを作っていく(子どもたちには作っていってほしい)という現実世界での期待とリンクさせた内容となっています。こういった作品内でのキャラクターの行動とZ世代に向けたメッセージの二重構造が随所にみられるのは水星の魔女の大きな特徴ですね。技術をどう使うかという点に関してはターンエーガンダムでのモビルスーツを洗濯に使う、MS内にある兵器を格納する部分である胸部マルチパーパスサイロに牛を入れて運ぶなどのシーン、そして作中屈指の名言である「人の英知が生み出したものなら、人の命を救ってみせろ」という核兵器を使用する際の台詞を思い出します。作品のテーマである「ガンダムの再定義」を思わせるように随所にこれまでのガンダムの要素が含まれているのも水星の魔女の特徴の一つです。
これまでのガンダム作品の要素が伏線のように使われているのは水星の魔女の特徴ですが、水星の魔女のストーリー自体には今のところ多くの伏線が張られているようには見えません。個人的には興味が無いのですがアニメやドラマの伏線と感じる要素を探ってこれまでの展開を予想するのを楽しんでいる人は一定数いるようで、ブログ記事やYouTubeではそれで人気を博している人もいるようです。水星の魔女では半分それを拒むかのようにあまり目立った伏線はなく1話の構成でも展開が早めで1話完結のような造りになっています。これに関してはZ世代は巷に溢れている多くのコンテツに触れているために1週間前のストーリーなんか覚えてない、同じ話を2回も3回も見ないという傾向があるのではと思っています。今の時代連続的なストーリーが理解しにくくなっているというのはロードムービーという連続的なストーリー構成と多くの伏線を張り巡らせていたGレコの評判が悪かったことからも感じます。1週間前のストーリーを覚えてないから簡単に答え合わせをするために考察ブログなどが読まれるのではないかと。まあGレコに関しては作った富野氏本人もわかりにくかったと認めていますし、1週間ではなく10年、20年、30年で3回、4回見てもらうことを想定していると思うので単純に比較はできないのですが。
1話あたりの物語をコンパクトに纏め展開を早くすることで密度を上げていく造りは一見見やすいのですが、伏線がないことで展開が突拍子もなく物語が薄くなりがちな部分が展開の速さでごまかされているような気がします。ただこれに関しても前述のZ世代のコンテンツの消費の仕方の傾向や視聴者の読解力が低下しているために多くの伏線を張って話を複雑にしても理解してもらえず、1シーンあたりで印象に残るような展開や台詞を重ねていって話を作らざるをえないという事情があると考えています。日本人の読解力の低下に関してはOECDの調査結果で明らかになっていますが、その他日本人の3割は文字は読めても文章を読むだけの読解力がないこともわかってきています。その理由としては既存の教育システムやさまざまなハンディキャップがあることが解明されてきたことなどあり、よくいわれるような若者が本を読まなくなってきたからなどと単純化できないものがあります。こちらに関してはAIで東大受験に挑戦しようとした「東ロボくん」で検索してもらえたらと思います。
物語は新しい方向に進み始めました。現実と作品内での世代間での二重構造のガンダムの再定義は見事ですが、Z世代の消費傾向に対応した作品作りに関してはその要素が強くなればなるほど10年、20年後に通用する作品からは遠ざかっているように感じます。近年のアニメはオンエア時は盛り上がっていても1年後には忘れ去られてしまうということはザラにありますが、水星の魔女がそのような作品にならないためにもただ今の若者の消費傾向に対応するだけではなく、適度に伏線を張りながらキャラクターの内面を深めていく展開と50年後、100年後を考えた世界観を構築するべきなのではと思います。
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