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おじいさんは大工さん

家の近くで家を建てている。
しばらく基礎を寝かせていたが、先日上棟だった。
と言っても建主さんがくる様子もなく、レッカー車がやってきて大工さんたちが黙々と材木を積み上げていく。
上棟、建前、餅まき、五色の旗…
そんな言葉も風景も、今は昔になってしまった。

私の母の家は大工だった。
母の父、私にとっておじいさんが大工さんで、母の弟二人も大工さん。
今は従兄弟が工務店を継いでいる。

私が子供の頃、工務店の仕事は一家総出だった。
家を建てる時、おじいさんと叔父さんたちは自宅の敷地内で「刻み」という仕事をしていた。
ノミなどを使って角材に切り込みを入れる。墨を使って刻んだ材木に印をつける。
外から見える柱にはきれいにカンナをかけてスベスベにする。
おばあさんの家でおじいさんたちが木のカスまみれになっていると「新しい家が建つんだ」と思った。
木くずは「木っ端」積み木にして遊んだ。
長くきれいに削れたカンナ屑はクルクル巻いていて、集めて放り投げたり持って走り回ったりした。
おじいさんの家はいつも木の匂いがしていて、私はそれが好きだった。

おばあさんはいつも木っ端を片付け木くずをはいていた。
時には現場に行って何か手伝っていたし、母もそうしていた。
新築の家が出来上がって引き渡す前には、「お掃除」と言っておばあさんや叔母さん、母も手伝って家じゅうきれいにしていた。

家を建てる時、一番楽しみだったのは上棟式。
材木がどんどん積み上がって屋根までできる。屋根までできたら五色の旗を挙げて御神酒をあげる。
そのあと餅まきをする。
丸餅、お菓子、みかんにまき銭もあった。
上棟があると投げ餅の時間を聞いて家の周りに集まる。投げる方は豪快に。拾う方は必死でいろんなものを拾った。

おじいさんは大工だったが、大工仕事をしている記憶がほとんどない。歳をとってしまって現場の仕事は叔父さんたちが担っていたのだろう。
それでも上棟の日には新しい手ぬぐいを頭に巻いて、叔父さんたちに何やら指示をしているおじいさんがいた。その時の姿はいつもよりちょっと怖かった。そして格好良かった。

母は今でも「〇〇のところにある家はおじいさんが手掛けた」とか
「〇〇さんの家はおじいさんが建てた」と自慢げにいう。
昔はハウスメーカーがなかったから、地域の家は大工さんが建てていたのだ。

新しい家の工事は今日も進んでいる。
「昔はもっと木の匂いがしたな」
そんなことを思いながら、建物の中に増えていく材木を遠くから眺めている。

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