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デザインはこころに効くと思うから

今回の内容には、本で出会った、ある病に関する内容が登場します。
今はそういった出来事に触れることが苦しい、というふうに感じる方は無理に読み進めずにご自身のお気持ちを大事にしてください。


“「くらいものをあかるく、おもいものをかるく、
かたいものをやわらかく」“

「がんをデザインする」中島ナオ より

この本を手に取ったきっかけが何だったのか、今はもう覚えていない。

『デザイン』と『がん』というキーワードが並んでいることに、
どういうことだろうと引き込まれてしまったのか。

はたまた魅力的な本の装丁にフラフラと引き寄せられてしまったのか。

図書館の本棚から、初めて本を引き抜いたきっかけはもう忘れてしまったけれど、今もずっと追いかけてしまっている理由はわかっている。

本の表紙に映っている、とてもかわいい人。
本の著者である中島ナオさんの笑った顔のかわいさに惹かれてしまった。単純だけど、これがたぶん一番シンプルな理由。

中島ナオさんが、ナオさんとして笑っていてくれていなかったら。
私は本に出会っていたとしても、本棚にそのまま戻してしまっていたかもしれない。

そして私が心惹かれたのはこのことばだ。

“「くらいものをあかるく、おもいものをかるく、かたいものをやわらかく」“

「がんをデザインする」中島ナオ より

今、自分が病気かどうかは関係なく。
生活を、人生を、命を、自分でデザインしていくときに、何度でも唱えたいたいせつなおまじないみたいに思える。
ことばの本質がまだわかっていないままだとしても、
唱えているうちにいつか心や身体や毎日にしみ込んで、あるとき効力を発揮してくれるような。
『がんをデザインする』という本に、中島ナオさんの作りだしたコンセプトに、プロダクトに、まっすぐな意思に魅了されている。

中島ナオさんの肩書きはQOLデザイナー。
QOL。
Q uolity Of Life =クオリティオブライフの頭文字だ。生活、人生、命。その質。
ライフの質をデザインすること。

魅力的な笑顔の、中島ナオさんというデザイナーは、ある日、自分のからだの中にがんがあると知る。
その病気を、治せる病気にしていくんだと「deleteC」という取り組みをスタート。

deleteは、消す、無くす、消去の意。
CはCancer(キャンサー)=がん。

がんを治せる病気に、がんを世界から消そうという取り組みに賛同した企業は多数。

その取り組みはこんなふうだ。
対象の企業名や商品名の「C」のつくものに、打消し線を入れる。
その画像をSNSにアップしたり、取り組みに賛同した企業の商品を購入することで、売上の一部が、がんの治療に向けての研究に寄付されるという仕組み。

この取り組みをきっかけに、研究がより進み、病気の心配がひとつ、世界から消える日がきたらどんなにいいだろう。
最初は中島ナオさんのやりたいことを応援してみたい、というファン心理で私も何かやってみたいと思いながら本を読み進めた。

本を最後まで読むと、あぁこの灯を消してはいけないなと思い始めた。
本を通して、ナオさんから手渡されたように感じた灯。
この灯は。
温かい、を少し超えていると思う。熱い。この灯を熱を、私はどうしたらいいんだろう。

これまで私にとって、この病気は祖父と友人ふたりを、遠くに連れて行ってしまった病だった。ちょっとまだ、時間か私の心構えか、いろんなものが足りていないせいで、悲しさやこわさや不安から目を逸らすようにして暮らしてきてしまった。 

そんな「C」について、自分自身がどんな風に思ったらいいのか。
ましてや自分に何かできることがあるのか。
ただ、そんな病気の重苦しい気配をも、デザインの力で塗り替えようとするデザイナーがいる。そのことを、もう少し身の回りの人に知ってほしい。

彼女がデザインしたもの。たとえば、手術や薬の影響で、変化してゆくからだを、新しく優しく包むような服やヘッドウエアは、機能性を考え抜かれていながら、デザインがとてもかわいい。
いろんな前置きを取っ払ったとしても、彼女のデザインは、単純に使う人や目にする人をうれしくさせる力がある。
彩りがあるのに、自然な印象。

漠然と、もし病気になったら私の生活はどうなるんだとうと不安になることは昔から度々あった。
だけど、中島ナオさんのデザインに出会うことで、漠然とした恐怖が空気になじんでいく感じを覚えた。どんな病気が自分の中に生まれても、この私、このからだで日々を暮らすことはきっと続いていくんだなと思えた。

ナオさんのデザインが、濃く黒い不安に、クリアなしずくをポトリと落としてくれた感覚。

病気を持つかどうかにかかわらず、ナオさんのデザインを彩りとして日々に迎えてみたくなる。


『がんをデザインする』は最初は何気なく手に取った本。
でも以前に私が読んで、心に残っていた2冊の本と関係が強いと知って驚いた。
まず、この本に出会う前に読んでいた「ニジノ絵本屋さんの本」。その著者でもあり、ニジノ絵本屋の店主でもある、いしいあやさんは中島ナオさんのお姉さんだった。
さらに、数年前に読んで、あぁこういう活動にいつか携わってみたい…と思っていた「注文を間違える料理店」の著者、小国士朗さんが、「deleteC」の取り組みの重要な伴走者だと知る。

こんなこと、やってみたいなと思って読んでいた本の著者さんが立て続けに登場して驚いた。
こういう偶然があると、「呼ばれてるのかな、、」と感じてしまう性質なので、もうグッと引き寄せられてしまった。

震災に関するクラファンの際と同じく、災害も病気も、当事者の声が心に届いたとき、
大きく揺さぶられ、微細でも使命感に似た感情が湧くことは多い。
でも、本当の本当の本当に、出来事の真ん中を知って、体感している状況にはほど遠い。そのことに、自分で嫌気がさすこともあるし、無力感を感じることもある。

よく知りもしないで、軽はずみな…と思う自分がいる。
そうなんだけど、中島ナオさんに惹かれてしまったっていう感情は私だけのもの。
そして、ナオさんの熱い灯が、私の元にも届いたことを気のせいにはしたくない。

9月1日17時から、「deleteC」大作戦2024年が始まる。
サントリー『C.Cレモン』『デカビタC』やKOKUYOの『Campus』ノート、オキシクリーンなどなど。

おうちにあったら、その商品の「C」に斜線を入れたものを写真や動画に撮って、ハッシュタグをつけてXに投稿。もしくは参加企業の公式アカウントの「deleteC」大作戦の投稿をリポスト、再生、いいねすることでも。がん治療の研究応援として寄付になるそう。

取り組みを知って、どんな風に感じるか、何をやってみるのか、もしくは何もやらないことにするのかを決めるのは自由。

「あかるく、かるく、やわらかく」
私、ずっとそうありたかった気がする。
2024年は、ちょっとだけ、私もできることを始めてみます。


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