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7月1日、もしもし今日はお休みいたします

7月1日は私たち姉妹が学校を休むと決まっている日だった。

小学校高学年から中学校にかけて。
その日になると、朝、母が学校に欠席の電話連絡をする。
25~30年ほど前のことなので、今の学校のようにオンラインでの欠席連絡のシステムなどない。クラス替えの度にクラス全員分の固定電話の番号一覧がプリントにして配られていた時代。

「もしもし、〇年〇組の△△ですけど。」
2歳差の姉妹のため、同じ学校に通っていた時期が長いけれど、いつかの年はどういうわけか、小学校に2回電話をかけ、姉妹分を別々の電話で欠席連絡している母の姿も見たような記憶がある。そこは、1本の電話で姉妹分伝えていいんじゃないのと思ったことがある気が。記憶は曖昧だけれど。
学校に電話をすれば、欠席理由を聞かれる。聞かれなくても、理由を伝えなければならない空気感が漂う。

理由は毎年バラバラ。
母の母、つまり私たちの祖母を体調不良にしていた不謹慎な年もあった気がするし、遠方の親戚が訪ねてくるのでと言っていた年もあった気がする。後半のほうは、家庭の用事、という理由に一本化されていったような。「なんだそれは」って感じなのに、それ以上つっこめない感のある理由に。

そんなふうにして、7月1日は毎年、学校を休んでいた。
なぜか。

バーゲンの初日だから。

最近はセール時期が、どんどん早まってきている印象がある。私が小学校高学年から中学生あたりの時代はバーゲンと言えば、7月1日から始まっていた。
(いや、もしかしたら日にちは年によって、多少前後していたのかもしれない。なんせこどもだったのでおゆるしください)

私たち姉妹と、母の親子3人は、毎年学校を休んでバーゲンに繰り出していたのである。

人によっては、こんなこと、すごく怒られそう。私たちだって、平気だったわけではない。多少の罪悪感はあった。
でもそれよりもはるかに勝る、高揚感…!!
バーゲンだ!!

開店と同時の入店を目指して家を出る。家から、福岡の中心地である天神までは車で1時間ほど。どんな服が売ってるだろう。夏休みに着る、Tシャツが欲しいな。
開店を待っている人だかりの中に、小学生・中学生はおらず(当たり前だ)、うっすら罪の意識と優越感の中で10時を待った。

今思えば、母はどうして私たちの服にお金を惜しまなかったのだろう。迷っていたTシャツを、安い!どっちも似合う!と色違いでどちらも買ってもらった年もあった。

服だけじゃないな。私たちが欲しがるものは、なんでも…ではなかったのだろうけど、割と嫌な顔せず与えてくれた。
買うかどうかの相談にも乗ってくれたし、買うときにも一緒についてきてくれた。

ごくごく一般の家庭で、全く裕福ではなかったのに。新聞の折り込みチラシの求人情報をいつも端から端まで見ては、いやいやながらも、いろんなパートをしていた母。
「娘たちの喜ぶ顔を見るのが私のしあわせっちゃんね~」と、娘の願いを叶えるたびに、ほんとにいつもうれしそうにしていた。

そういえば、他の、進路だとか部活だとか、いろんな選択も、嫌な顔をされたことがない。私もこどもを喜ばせるのは楽しいけれど、それでも「えーそれはやめようよぉ」とつい言ってしまうことはある。母から、そんな風に反対されたことってあったっけなぁ。

バーゲンのために、学校を休ませる母である。学校にきちんと電話までかけて。
子どものやりたいことに、嫌な顔をしなかったのは、嫌な顔を見せないようにしていたのか。それとも本当に嫌ではなかったからなのか。今度、母に聞いてみよう。
今では孫のために、お菓子だおもちゃだとウキウキ物色している母に。

7月1日は過ぎたけど、今度、母をセールに連れて行ってみようか。開店と同時に、孫向けのコーナーに走る母を、止められるか。否。

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