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EUがメルコスルとのFTAで最終合意 農業界の反対押し切る

欧州連合(EU)の欧州委員会は12月6日、ブラジルなど南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)の締結で最終合意したと発表しました。関税の撤廃などを通じて両地域間の貿易を促進するのが狙いです。EUの農業界は「安価な南米産の農産物が流入して打撃を受ける」と反対してきましたが、押し切った格好です。EUの農業界は反発してデモを続け、農業が盛んなフランスなど一部加盟国は反対を表明しており、先行きは不透明です。

メルコスルには、農産物の大輸出国であるブラジルとアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイが加盟しています。FTA交渉は1999年6月に始まり、2019年6月にいったん妥結しました。その後、さらに関税削減などについて交渉が行われ、最終合意に達したということです。加盟国や欧州議会の承認を経て署名されるため、まだ必要な手続きが残っています。

フォンデアライエン欧州委員長は声明で「この協定はウィン・ウィンの合意で、両地域の消費者やビジネスに大きな利益をもたらす」と強調しました。農業界の反発を踏まえ、「農家の懸念に耳を傾け、行動した」とも表明し、不安の払しょくに努めたことも明らかにしました。

これに対し、EU最大の農業団体コパ・コジェカは声明で、「われわれは数年間、この時代遅れで問題のある協定に断固反対してきた」と改めて強調しました。また、「加盟国や欧州議会がこの協定を受け入れれば、欧州の家族農業や4億5000万人の消費者に深刻な影響を及ぼす」として、反対するよう求めました。FTAで特に影響を受ける品目として、牛肉と鶏肉、砂糖、エタノール、コメを挙げています。

欧州委員会の発表によると、EUのメルコスル向けの輸出額は、自動車など560億ユーロ(2023年)に上り、地域別では10位です。しかし、自動車の輸出には35%の高関税が課され、化学製品にも最大18%、医薬品にも最大14%の関税が課されています。FTAが発効すれば、こうした関税が撤廃され、関税の削減額は最終的には年40億ユーロに上り、輸出を大きく増やせると期待しています。

農産物や食品についても、メルコスルはEU産のワインに27%、チョコレートに20%、清涼飲料に20~35%の高関税を課しています。FTAによってこれらの関税が撤廃されるため、欧州委員会は「EUの農業界にとっても、メルコスル市場へのアクセスが改善されるメリットがある」とアピールしています。

一方、メルコスルにとって、EUは中国に次いで世界2位の貿易相手であるため、関税の撤廃によって大きな利益を見込めます。ただ、メルコスル産の農産物に対しても、遺伝子組み換え(GM)作物を含め、EUの厳しい食品安全規制は維持するということです。

しかし、コパ・コジェカによると、メルコスル加盟国は農薬や動物福祉などの規制がEUより緩く、低コストでの農業生産を可能としています。このため、緩い規制をバックに価格競争力が強いメルコスル産農産物がEUに大量に流入するとして、「公平な競争が不可能だ」と訴えています。

2024年初めに激化したEUの農家デモでも、環境規制などとともにメルコスルとのFTAへの反対を訴えていました。フランスの農家を中心に、秋から再びFTAに反対するデモを活発にしており、同国のマクロン大統領はFTAに反対する考えを表明しています。

EUがFTAを承認するには、27加盟国のうち15カ国以上、域内人口の65%以上の賛成と、欧州議会で過半数の賛成が必要となります。欧州メディアによると、自動車など工業が盛んなドイツやスペインを筆頭に多くの国は賛成する一方、フランスのほかにオーストリアやポーランド、オランダが反対する可能性があるということです。ただ、これら4カ国ではEU人口の約30%にとどまるため、否決するにはさらに他の国の同調を得る必要があります。


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