GMトウモロコシ規制が米国とメキシコの貿易紛争に発展
米通商代表部(USTR)は2023年6月2日、メキシコが遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの輸入を規制するのは米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反するとして、紛争処理協議を要請したと発表しました。これにより、GM規制をめぐる貿易紛争に発展することになりました。米メディアによると、両国から選ばれた3~5人による紛争処理小委員会(パネル)が設置され、審理が行われることになります。
メキシコのロペスオブラドール大統領は2020年12月末、2024年までにGMトウモロコシの食品向けの輸入を禁じると表明しました。メキシコにGMトウモロコシを多く輸出している米国は猛反発し、撤回を強く求めてきました。2023年1月30日には、USMCA協定に基づき、メキシコに文書で説明を求めました。メキシコは2月に輸入禁止を2025年に遅らせるなど一部を見直したものの、米国は回答は不十分だったとして、3月6日にはUSMCA協定に基づく技術協議を要請しました。USTRによると、この技術協議でも問題を解決できなかったため、紛争処理協議を要請することになりました。
キャサリン・タイUSTR代表は声明で「メキシコのバイオテクノロジー政策は科学に基づいておらず、メキシコへの輸出を混乱させ、米国の農業生産者に不利益をもたらし、ひいては食料安全保障問題を悪化させるとの懸念を繰り返し伝えてきた」と述べ、解決に向けて努力してきたことを強調しました。さらに、「メキシコのバイオテクロジ―政策は、米国の農業者が気候変動問題に対応し、農業生産性を高め、農家の生活を向上させるのに役立つ技術革新を阻害する」と批判しました。その上で「この協議を通じ、メキシコ政府と連携しながら、われわれの懸念を解消し、安全で手ごろな価格で食品や農産物に消費者がアクセスできるようにしていきたい」と訴えました。
米農務省(USDA)のトム・ビルサック長官は「われわれは全ての農家の成功をサポートしており、それは公正で開かれ、科学とルールに基づいた貿易を意味する。こうした精神に基づき、3カ国の生産者が互いの市場に完全、公平にアクセスできるようにUSMCAは策定された」と強調しました。その上で、「数十年にわたって安全性が証明されているバイオテクノロジーについて、メキシコの措置に全く同意できない。USMCAに基づいて我々は権利を行使するとともに、イノベーションや栄養安全保障、持続可能性、農家や成功を支援していく」と説明しました。
米メディアによると、USMCAに基づく紛争解決手続きは、第一段階として技術協議の要請を行います。30日以内に会合を開いて打開を目指しますが、駄目だった場合には今回のようにパネルが設置され、貿易紛争に発展します。パネルは、両国からの意見聴取や文書の提出を通じて審理を進め、USMCA協定に違反しているか決定を下します。メキシコが敗訴すれば、45日以内に措置を撤回しなければなりません。それでも撤回しなければ、米国がメキシコ産の農産物に報復関税を課すことができるようになります。
今回のUSTRの対応について、米国の農業界は歓迎しています。米最大の農業団体ファーム・ビューローは「歓迎する」とした上で、「残念なことに、メキシコは科学やUSMCAを無視し続けている。輸入を禁止すれば、安全で手ごろな価格の米国産の食品に頼るメキシコの人々を苦しめることになる」として、措置の撤回を改めて求めました。
トウモロコシなどの輸出を促進する米穀物協会も「USTRに感謝する」とした上で、「メキシコでトウモロコシ価格が上昇し、メキシコの食料安全保障が悪化する。われわれは米国政府を全力で支援する」と表明しました。全米トウモロコシ生産者協会は「メキシコの行動は科学に基づいておらず、米国のトウモロコシ生産者や農村の財政を脅かすことになる。USTRやUSDAに深く感謝する」と表明しました。