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食料システムの「隠れコスト」は12.7兆ドル、途上国に大きな影響

国連食糧農業機関(FAO)は11月6日に発表した年次報告書で、人間の健康や環境の悪化など、農業・食料システムが社会や経済に及ぼすマイナスの影響により、2020年は世界154カ国合計で12.7兆ドル(約1900兆円)の「隠れコスト」が生じたとの推計を明らかにしました。国内総生産(GDP)の1割に相当し、特に途上国への影響が大きいということです。農業や食品産業は、人々に食べ物を供給し、健康で豊かな生活に貢献するプラス効果がある一方で、マイナス効果も無視できなくなってきました。持続可能な農業の実現に向け、隠れコストを把握し、削減する必要性をFAOは強調しています。
 
報告書は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、農業・食料システムをより効率的で、強靱で、包括的で、持続可能性の高い方向に変革しなければならないと主張しています。このために、把握しにくい隠れコストもきちんと数値化した上で、世界各国に対策を促すのが狙いです。FAOが国ごとに詳細な隠れコストを示すのは初めてということです。 

FAOは隠れコストを、「環境コスト」「健康コスト」「社会コスト」の3タイプに分類しました。環境コストは、温室効果ガスや窒素の排出、水の使用、土地利用の変化によって生じるさまざまなコストに相当します。健康コストは不健康な食事によって生産性が低下することで生じるコストを指し、社会コストは貧困や栄養不足による生産性の低下によって生じるコストということです。
 
こうした隠れコストは、2020年は世界154カ国で合計12兆7489億ドルとなりました。世界全体のGDPの10%に相当します。内訳は、健康コストが9兆3102億ドルと、全体の73%を占めました。これは特に先進国に多いのが特徴です。ジャンクフードばかり食べるなど、日ごろの不摂生がたたって生活習慣病になるといったイメージでしょうか。
 
次の多いのが環境コストで、2兆8678億ドルとなりました。このうち窒素が1兆5155億ドルと半分以上を占めています。以下、気候(8548億ドル)、土地(3923億ドル)、水(1051億ドル)と続きます。
 
社会コストは5709億ドルとなりました。農業や食品産業の労働者の貧困が5199億ドルと大半を占め、栄養不足による病気が510億ドルとなりました。世界全体から見れば少ないのですが、貧しい国ほど社会コストの割合が大きくなっています。先進国は豊かすぎる食生活によって病気になり、最貧国は栄養不足によって病気になるという問題が改めて浮き彫りとなっています。
 
所得水準の違いによって状況がかなり異なるため、FAOは所得水準によって154カ国を4グループに分けた分析も行っています。隠れコスト自体は、中国など新興国を含む高中所得国が39%を占め、日本や欧米など高所得国が36%と、豊かな国が多くなっています。いずれも健康コストが大半を占めています。

これに対し、中低所得国は全体の22%で、低所得国は3%に過ぎません。しかし、低所得国は社会コストが半分を超えており、栄養不足が深刻であることが分かります。隠れコストがGDPに占める割合も所得が低くなるほど大きくなり、高所得国は8%にとどまるのに対し、低所得国は27%に上ります。

日本の隠れコストは、GDP比5%の2679億ドルと推計されました。世界全体の2.1%で、GDPに占める割合も世界平均(10%)や高所得国平均(8%)を下回っており、それほど多くはなさそうです。健康コストが2414億ドルと全体の9割を占めるので、他の先進国と同様、健康に注意して食生活を見直す必要がありそうです。

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