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EUの戦略対話が最終報告書 農業政策の抜本見直しを提言

欧州連合(EU)の農業政策の在り方を検討してきた戦略対話は9月4日、最終報告書をまとめ、フォンデアライエン欧州委員長に提出しました。報告書は「今こそ変革の時だ」として、補助金の支給対象の重点化など、EUの共通農業政策(CAP)の抜本的な見直しを提言しました。欧州委員会が2025年春ごろに策定する「農業・食料ビジョン」にどう反映されるかが、次の焦点となります。
 
欧州委員会は2020年5月に「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」を公表し、農薬半減や有機農業拡大などの目標を打ち出しました。しかし、環境規制を大幅に強化したことが農家の反発を招き、2023年以降、欧州各地で農家のデモが起こりました。もっと農家の声を農業政策に取り入れようと、フォンデアライエン委員長が戦略対話の創設を提唱し、2024年1月から議論を続けてきました。
 
戦略対話の議長はドイツのペーター・シュトロシュナイダー教授が務め、農業団体や環境団体、消費者団体、食品業界、金融業界、大学の代表ら29人がメンバーとして参加しました。農家による激しいデモなど、農業政策をめぐる分断が深刻になる中、農業に関わる全ての関係者によりEU農業の将来像を考えるのが狙いです。
 
2024年1月から全体会合を7回開き、報告書の内容について、メンバーが全会一致で同意したと欧州委員会はアピールしています。欧州委員長として再任が決まったフォンデアライエン氏は、戦略対話の報告書の内容を踏まえ、2期目の任期が始まる2024年12月から100日以内に「農業・食料ビジョン」を策定することを既に表明しています。
 
報告書は、EUが目指す農業・食料システムの基本理念として、以下の10項目を掲げました。
 
1,変革の時は今
2,フード・バリュー・チェーン全体の協力と対話が不可欠
3,政策手段は一貫し、強力に実現しなければならない
4,食料・農業生産は欧州の安全保障の重要な部分として戦略的な役割を果たす
5,若者や農村地域、欧州の食料・農業システムの多様性は重要な資産
6,経済、環境、社会の持続可能性は互いに補強する
7,市場によって持続可能性や価値の創造を促進すべき
8,農業・食料システムの持続可能性を高めるため、技術やイノベーションを活用すべき
9,より健康で持続可能な食生活への移行が不可欠
10,      食料安全保障や自由民主主義にとり、魅力的な農村地域は極めて重要
 
具体的な提言としては、5本柱として、①持続可能で、強靭、競争力のある将来に向けて協力して取り組む②持続可能な農業・食料システムに向けて前進する③強靭性を促進する④魅力的で多様なセクターを創出する⑤知識とイノベーションへのアクセスを改善し、利用を促進する―を掲げました。
 
キーワードとしては、持続可能性、強靭性、多様性、イノベーションといった言葉が挙げられそうです。要するに、環境負荷を減らし持続可能性を一段と高め、気候変動や異常気象などへの強靭性を高め、小規模農家や若者の参入の増加などで農業の多様化を進め、イノベーションを一段と活用して生産性を向上させる―ということです。
 
数え方にもよりますが、それぞれの柱の中に3~6項目の提言があり、提言は合計で23に上ります。1本目の柱の中に「CAPを目的に適合させる」との提言があり、現行のCAPは現在や将来の課題に対応できていないとして、改革の必要性を訴えています。
 
これまでのCAPによる直接支払いは、農地面積の大きさに応じて平等に補助金を払うのが大きな割合を占めています。これに対して報告書は、若手農家や新規参入者、小規模農家など支援が必要な農家に絞り、重点的に支給するよう求めました。
 
現行のCAPは、直接支払いの25%以上を「エコスキーム」として、環境に配慮した取り組みを行う農家に支払うことになっていますが、こうした取り組みをさらに拡大させることも盛り込まれました。
 
2本目の柱では、「健康で持続的な選択が簡単にできるようにする」として、食生活の見直しを提唱しました。具体的には、欧州人は肉を食べ過ぎて不健康なので、肉食を減らし、植物性の食品に切り替えるよう促しています。
 
化学肥料や化学農薬の使用については、ファーム・トゥー・フォーク戦略のように目標値までは示していませんが、削減を求めています。有機農業は引き続き支援することも盛り込まれました。農業政策の基本的な方向性は維持されるようです。
 
フォンデアライエン氏は報告書を受けて声明を出し、「報告書の提言を丹念に検討し、農業・食料ビジョンに反映させる。(12月からの)次の任期の最初の100日以内に公表する」と表明しました。その上で「農家は公正で十分な所得が保障されなければならない。欧州の農家のおかげで、欧州には世界最高品質の食料があるからだ」と強調しました。


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