フランス各地で見かけた「マイクロ・ライブラリー」を紹介
旅好きが高じてフランスで大小100近いまちを訪れたが、路上や公園などにパブリックな本箱が設置されているのをよく見かけた。
「リトル・フリー・ライブラリー」とか「マイクロ・ライブラリー」などといって、2000年代にアメリカで始まった取り組みだ。フランスでは「Boîte à Lire(読書の箱)」「Boîte à Livres(本の箱)」などと呼ばれている。
中の本は誰でも自由に借りられる。また、自分の本を入れてもいい。
貸し出し期限はなく、名前や連絡先など個人情報を提供する必要もない。
もちろん無料だ。
リトル・フリー・ライブラリーのサイトのトップページには、3つのコンセプトがどーんと載っている。
サイトによると、リトル・フリー・ライブラリーはボランティアによって121の国に広がり、現在は17万5000以上存在しているという。
アメリカもそうだと思うが、フランスにはこのリトル・フリー・ライブラリーやマイクロ・ライブラリーを展開する団体がいくつもあり、すべてを網羅的に把握するのは難しい。けれど、やっていることや理念は共通している。本箱をマッピングするサイトもあり、共感でつながるネットワークがゆるく形成されているように見える。
手づくりの小さな図書館
これはサルラ=ラ=カネダという人口1万人以下(by Wiki 以下同)のまちにあったマイクロ・ライブラリー。説明板には以下のように書かれていた。
説明によると、市と図書館が共同で管理しているよう。そういえばマイクロ・ライブラリーは、人口数千人以下の小さな村でもよく見かけた。いま思えば、住民の図書館代わりになっていたのかもしれない。
また、マイクロ・ライブラリーはベンチと一緒に置かれていることも多かった。本もベンチも好きな私にとってはたまらない読書スポットだ。
こちらはサン=レミ=ド=プロヴァンスという人口約1万人(2015年)のまちのマイクロ・ライブラリー。
解説を読むと、最初の文字「Prenez, voyagez, partagez, échangez」と、真ん中の4つのイラストの内容は同じで、それぞれ「取る」「冒険する(読むことの比喩)」「共有する」「あなたの本と交換する」と書かれている。その次に、フランスの詩人であり小説家のヴィクトル ユゴーの言葉「光は本の中にある。本を開いて輝かせなさい」的なことが引用されていて、以下の説明が続く。
最後にあるDecitre(デシトル)基金のDecitreは、フランスに11店舗を展開する書店だ。マイクロ・ライブラリーは本の普及活動の一環でもあるのだろう。
どこが、誰が管理しているのか
お次は、「クリュニー修道院」がある人口約4500人(2007年)のクリュニーの駐車場にあったマイクロ・ライブラリー。
ヴィクトル ユゴーの引用と、つくり手(クリュニー美術学校)が記されている。このクリュニー美術学校が、管理もしているのだろう。
こうしたフリーな設置物は、きちんと管理されていることが大切だと思う。とりわけ、海外に比べてまちが整然としている日本は、そこを気にする傾向が強い気がする。ゴミを入れられたり、空っぽのまま放置されたら、かえってすさんだ印象になってしまう。
コロナ禍に訪れたボルドー近郊のまちミュシダンでは、一時的に使用禁止になったマイクロ・ライブラリーに出くわした。
本箱には、ライオンズクラブと町のロゴ。ライオンズクラブは世界的な奉仕団体ということを考えると、マイクロ・ライブラリーは地域に関する慈善事業のような位置づけなのだろう。これとまったく同じデザインをしたライオンズクラブのマイクロ・ライブラリーは、別のまちでも見かけた。
障害がある方への配慮
こちらは、スペインの国境近くにある人口約5万5000人(2021年)のまちナルボンヌの公園内。
側面の案内には、まちのロゴのほかに車椅子のマークもあった。無料で、誰もがアクセスできるというのがマイクロ・ライブラリーの最大のよさだから、障害のある方に配慮するのは自然なことだと思う。
マスタードで知られるディジョンを訪れたときに見つけたマイクロ・ライブラリーには、点字もあった。
店先に置いて、「集客」と「地域活性」を兼ねる
南フランスのアンスイという、人口約1100人(2006年)の村にあったマイクロ・ライブラリー。日本でいうイオンのような大手スーパーマーケットCasino(カジノ)が運営する地域密着型の小型店舗「Vival」の店先に置かれていた。本箱の名は「Vival LIVRES」。「LIVRES」は「本(livre)」の複数形だ。
管理はもちろんVival店舗。Vival LIVRESのサイトを見ると、ここ以外にも105の店舗に設置されていて、目的は「顧客と事業者のつながりを強化し、地方の活性化を図ること」だという。
以下の記事によると、ヴィシーというまちのVivalにマイクロ・ライブラリーを設置したところ、すぐに住民が本を持ち込むようになり、箱は常に満杯だという。店に用事がなくても本箱の前で立ち止まったり、そこで待ち合わせをする人もいるそう。
簡易的なものもある
一方、もっと簡易的かつ一時的なケースもある。こちらはエクス・アン・プロヴァンスという、私が約1年半住んでいたまちにある、「NATURALIA」というお店の入り口。
バスケットにつけられた紙には、こう書かれている。
本箱というより、本バスケットだけれど、やっていることはマイクロ・ライブラリーだ。
VivalやNATURALIAのようなチェーン店ではなく、個人店がマイクロ・ライブラリーを設置するケースもある。こちらは、同じエクス・アン・プロヴァンスにあるベジレストラン。
「あなたは、本を持っていくか、寄付するか、もしくはその両方をできます」と説明書きがあり、「みなさん良い交換を」と締めくくられている。
簡易的を通り越してもはや適当な、マイクロ・ライブラリーと呼んでいいのかわからないものも見かけた。
ここまでくると「ご自由にお持ちください」という感じ。
以上、私がフランスで出会ったマイクロ・ライブラリーの一部を紹介した。いかにマイクロ・ライブラリーが浸透しているか伝わっただろうか。
日本でも
日本では、マイクロ・ライブラリーはフランスほど普及していないが、「まちライブラリー」や「きんじょの本棚」など、類似する取り組みが各地で展開されている。いつか取材してみたい。
日本の取り組みを見ていると、本を通じた交流に重きが置かれている印象がある。フランスのマイクロ・ライブラリーのほうが匿名性が高い。個人的には後者の方が気が楽だが、どんなマイクロ・ライブラリーを利用したいと思うかは人それぞれで、もちろん正解はない。
また、フランスのように企業や非営利団体、自治体などがマイクロ・ライブラリーを広範囲に設置するケースは、日本には見られない。
理由は、湿気や雨が多く野外では本が痛みやすい、荒らされないかなど管理の心配が先立つなど、いろいろ考えられるが、そもそもマイクロ・ライブラリーは欧米を中心にしたムーブメントだ。日本で大々的にならないのも当然といえば当然だ。
とはいえ、「地域を活性化したい」「よりたくさんの人に本に親しんでほしい」「集客したい」といった思いがある人や団体にとって、マイクロ・ライブラリーは思いを叶えるひとつの方法になり得ると思う。それに、マイクロ・ライブラリーを見ると、なんだかワクワクするのは私だけだろうか。このノートが誰かの参考になればうれしい。