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定家の子孫!文化を守り続ける「冷泉家」とは
こんにちは!
よろづの言の葉を愛する古典Vtuber、よろづ萩葉です🖌️
今回は、百人一首の撰者とされる藤原定家の子孫、冷泉家のお話です。
藤原定家と俊成
藤原定家
平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した、この時代を代表する歌人
新古今和歌集の撰者の一人
新勅撰和歌集の撰者
有心体という理念を提唱(有心体:風雅な情趣を余情のある表現によって詠み、はなやかさを追求する歌体)
源氏物語や枕草子など多くの古典文学を書写
古典研究の第一人者
18歳から74歳までの間、日記「明月記」を記す
定家の和歌や歌論は、のちの時代の文化に大きな影響を与えています。
藤原俊成
定家の父
歌壇の第一人者
千載和歌集の撰者
幽玄体という様式を確立した(幽玄:奥深くて、はかり知れないこと。趣が深く味わいが尽きないこと)
この二人の子孫が冷泉家になりますが、
この家系は藤原道長の息子、藤原長家に遡ります。
冷泉家の家系
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藤原長家は道長の六男で、母は源明子。道長の側室です。
のちに正妻である源倫子の養子となりました。
長家から続く家系を、「御子左家」といいます。
不思議な名前ですが、これは長家が、醍醐天皇の皇子・兼明親王の御子左第(みこさてい)を譲り受けたことに由来します。
やがて俊成・定家が現れたことで、御子左家は歌の家として確立しました。
そして定家の子・為家が跡を継ぎます。
為家には正妻の他に、若い妻がいました。
正妻は宇都宮頼綱の娘で、息子が二人います。
二人目の妻・阿仏尼との間には息子が一人。
為相(ためすけ)と言います。
為家は元々は為氏に自分の財産を与える予定でしたが、為相が生まれたため、為氏ではなく為相に与えるという遺言を残しました。
それが「譲状(ゆずりじょう)」と呼ばれるもので、今も現存しており重要文化財に指定されています。
その結果、御子左家の嫡流は為氏の血筋でありながら、
御子左家が所有していた領地や長家、俊成、定家たちの古典籍や古文書類は為相が相続することになったのです。
嫡流の為氏は二条家、同母弟の為教は京極家、
そして為相が冷泉家を名乗りました。
二条家と京極家はその後断絶してしまったため、今では冷泉家のみが残っています。
冷泉家の文化財
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京都御所の北側にある、冷泉家住宅。
完全な姿で現存する唯一の公家屋敷だと言われています。
冷泉家に伝わる古典籍や古文書類は数万点に上り、
俊成自筆「古来風躰抄」
定家自筆「古今和歌集」「後撰和歌集」「拾遺愚草 上中下」「明月記」
これら5件の国宝と、48件の重要文化財が含まれます。
今年の4月に、古今和歌集の注釈書に定家が自ら注釈を書き込んだとされる「顕注密勘」の原本が見つかり、話題になりましたね。
もしかしたら今後、これも国宝に指定されるかもしれません。
冷泉家住宅の敷地には文化財を保管する蔵があり、その蔵も含めて冷泉家住宅自体が重要文化財に指定されています。
俊成や定家の自筆本が保管されている蔵は「御文庫」と呼ばれ、神聖な場所として守られているそうです。
冷泉家は鎌倉時代から800年もの間、住宅と文化財を守ってきました。
ここからは簡単に、その800年間の歴史を見ていきましょう。
冷泉家の歴史
はじまり
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始めに冷泉家を名乗ることになった為相ですが、相続争いがなかったわけではありません。
領地の相続争いの訴訟のため、為家が書いた譲状を持って鎌倉幕府へ向かった人物がいました。
為相の母・阿仏尼です。
京都から鎌倉へ向かいながら阿仏尼によって書かれたのが、十六夜日記です。
結果、為相が相続することに決まりました。
*十六夜日記:相続争いの訴訟のため、為家の「譲状」を持って鎌倉幕府へ行く時に書かれた。為相が勝訴するも、阿仏尼の没後30年のことだった。
戦国時代
時代は飛んで、戦国時代。
秀吉による京都御所の改革が行われました。
実はこの時、冷泉家は天皇家と諍いがあり大阪にいたといいます。
公家屋敷は当時、今の京都御苑の敷地内に立ち並んでいました。
ですが大阪にいた冷泉家はその中に屋敷を建てることはなく、その後、
江戸時代になって家康の力により京都へ帰ることができたのです。
そして今の場所、御所の北側に屋敷を構えました。
御所からは少しだけ距離が離れてしまいましたが、これが後に影響してきます。
江戸時代
戦国時代が終わったので、財力のある人々は戦ではなく文化に目を向け始めました。
そこで冷泉家が保管している文化財も狙われてしまったんです。
宝を持っていることがステータスだと考えられていたんですね。
このままでは良くない…ということで、文化財を守るために国が管理することになりました。
そのせいで冷泉家の人ですら自由に蔵に出入りすることができなくなってしまったそうです。
そして江戸幕府8代将軍、吉宗の時代。
この頃には蔵がまた冷泉家の元に戻っていたらしく、研究が進められました。
そしてなんとこの時期は、全国に3000人もの門弟がいたといいます。
吉宗もその中の一人でした。
和歌といえば冷泉家、と言われていたようです。
江戸時代の公家って、あまり歴史には登場しませんね。
彼らの仕事は、有職故実に沿った儀式や祭事を行うことでした。
幕府が公布した貴族に関する法律、禁中並公家諸法度では「天皇と公家は学問や文化の継承に専念するように」(意訳)とされています。
幕府が行う政治の邪魔をするな、ということなんですね。
*有職故実:古来の儀式・礼法の典型的方式
そして幕末。
動乱に巻き込まれないよう避難するなどして必死に文化財を守り抜き、
時代は明治となります。
明治時代
明治に入ると天皇が東京に移りますよね。
京都にいた公家たちも、続々と天皇のいる東京へ移り住んだといいます。
すると京都御所の周りは荒れ果ててしまったため、
明治天皇はその敷地を公園として開放することに決めました。
それが今の京都御苑です。
京都御苑の周りを囲っている土塀はこの時に作られたものです。
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公園にするにあたり、まだ残っていた公家たちも立ち退きを余儀なくされました。
ですが冷泉家は戦国時代に京都にいなかったおかげで、京都御苑の敷地の外に屋敷があったため立ち退く必要がなかったんです。
蔵も守らねばならないということで、冷泉家は東京へは行かず京都に残るという選択をしました。
そのため、今でも同じ場所に残り続けているんです。
御所が東京に移った後の京都は、町おこしに力を入れました。
その一環として作られたのが、平安神宮。
当時の冷泉家当主は平安神宮の創建に関わり、自ら宮司となりました。
時代祭の発案者の一人でもあるようです。
*時代祭:毎年10月22日に行われる。平安遷都1100年を記念して始まった。
京都が1000年培ってきた伝統を披露する、平安神宮の大祭。
京都三大祭の一つ。
今でも冷泉家は歌の家として、歌会始を毎年行っているそうです。
そして、財団法人「冷泉家時雨亭文庫」として、建物や冷泉家伝来の古典籍・古文書類の保存を行っています。
文化財を今まで守り続けてきた冷泉家についてお話しましたが、いかがでしたか?
俊成や定家の遺したものが、800年経った今でも守られているんですね。
さらにこの先の未来にも遺すために僕たちには何ができるのか、考えることも必要だと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました🖌️
(参考文献)
冷泉貴実子「冷泉家 八〇〇年の「守る力」」(集英社新書)
公益財団法人冷泉家時雨亭文庫:https://reizeike.jp/
HISTORIST「御子左家」:https://www.historist.jp/word_j_mi/entry/038223/
文化遺産オンライン「譲状」:https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/408241
国立学研究資料館『十六夜物語』:https://www.nijl.ac.jp/koten/kokubun1000/1000ikuura1.html
京都市上京区「秀吉の都市改造」:https://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000012443.html
環境省「京都御苑 公家屋敷跡の庭園」:https://kyotogyoen.go.jp/highlights2/kugeyasiki.html
平安神宮「京都三大祭 時代際」:https://www.heianjingu.or.jp/festival/jidaisai.html
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