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【詩】絵空事と現実主義者の香り

グルマンに似た香りを辿ってここまで来た。

深緑色に染まった草木。幽香。

夜を疑う昼。そこに馴染むことのない芳香。

クロロホルムの染付いたハンカチの半分がポケットからはみ出し、ひらひら揺れている。

書庫から1冊の本を取り出す。

題は字が掠れていて読めなかった。

ただ90ページ以降のフランスに関連する対話が私に衝撃を与えたことは記憶に新しい。

木々の騒きに呼応して左腕を搔く。

リアリストがクロロホルムの染付いたハンカチを刹那押し当て、酩酊街を彷徨う人々は軽い足取りで先へと向かう。

足取りの重い私は1輪のプリムラジュリアンと語り合う。

悲劇的喜劇と反シェイクスピア的転回に馳せ、揺蕩う。

夜と分からぬ夜、ここにはいられないと別れる。

負けることを知るレースに臨み、泣き疲れることさえ忘れた空想主義者の数々を横目に空想を語った。

話を聞くに、藍色の鳥は深緑と共に鳴いていたらしい。

漂う暇のないまま果実は熟れ、食べる暇のないまま幾つかに分裂した。

分裂が幸いして正気を取り戻した空想主義者は、緋色の夢見鳥を追いかけるように歩み始めた。

夜もすがら金曜日を夢に見続けた。

それが朝と気づいたのは藍色の夢見鳥がクロロホルムの染付いたハンカチを無理に押し当てたからだ。

疾うに持っていかれているものだと思っていたが、上を見上げると低木層の頂点に小人的リアリストが微笑んでいた。

彼が番人を担う手荷物検査場には、吊られたモノトーンの空想主義者たちがいる。

サザエさんとのじゃんけんを終えた男女数名がこちらを見ている。

彼ら彼女らの眼前のリモートコントローラーを手に取り、テレビを点ける。

辿ってきた香りはテレビのその向こうに続いている。

リアリストに髪を引かれ、ウッディノートの香水の香りをよすがに来た道を戻る。

グルマン的痕跡に日曜日の23:00を上塗りし、足跡は2つから1つになった。





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