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両親の老いの姿に四半世紀後の自分を重ねて④:介護付有料老人ホーム入居から5ヶ月経って

父親の言動に対して、とうとう入居している施設から物言いがついた(これまでは入居後間もないということで慣れるまで様子をみてくれていたようだ)。
妹に施設長から電話があって、別に苦情というわけではないのだが相当に困らせていることが窺える内容だった。

施設で出す食事を摂らない。
食欲がないのかと心配するが、部屋を訪問すると常にのべつ幕なしにお菓子を食べている。
ビスケット、あられや豆・砂糖で味付けした小魚などを小袋に分けたもの、味の濃い漬物類、牛乳や加糖ヨーグルト等、おはぎや大福等。

父は、40年来糖尿病の持病がある。糖尿病は、コントロールはできても完治はないと聞く。
痩せているから大丈夫だとか、自分の体のことは自分が一番よく知っている とか、言われることにいちいち言い返すらしい。
自分の体のことは自分が一番よく知っているのであれば医療機関にかかる必要はないだろうに、無類の医療機関好きで胃カメラだのMRIだのを受けたがる。薬をもらうのも大好きだ。しかし、効きすぎると言って飲まずに勝手にOTC医薬品を買って(妹を使役して買って来させて)飲む。

スーパーわがままな入居者だ。もっとはっきりいえば迷惑な問題入居者だ。

施設の人が言うには、父は、
「長男(私の弟)と長女(私)からは叱られる」
と言ったらしい。
妹とて進んで応じているわけではないが、苦言は聞こえぬふりで流して繰り返し同じ要求をするらしい。忙しい中で親の用事を足しに訪問している妹にしてみればしかたなく根負けしたに過ぎない。断れば断ったで何度でも呼ぶ。職場でも長年こうやって振る舞って部下に言うことを聞かせてきたのだろうと今なら推察できるが、物分かり良いフリ、優しいフリをしながら結局は自分の勝手な要求を押し通しているわけだからその実頑固そのものだ。

春先に、どういうつもりでこちらに移住してきたのか、玄関ドアを開ければ目の前に要求するものがすべて揃っているとでも思ったのかと問い詰めたときには、視線を逸らして、
「他所が良く見えたんだろうなあ」
と、他人事のような口調で言い、どこか老人ホームに入れないだろうかと言った(当時は賃貸の集合住宅に住んでデイサービスを利用していた)。希望通り入居施設を調べて探して手配したのだが。

これは強硬に注意する必要がある。夫婦は結局利害共同体だから、父母は実にすばやくぐるになる。こっちが母のために父に苦言を呈していてもいつの間にやらぐるになり梯子を外される。2対2の体制をとる必要がある と、妹と一緒に訪問した。
妹が買ってきた頼まれものを2人で冷蔵庫に入れ、古いものを回収して持ち帰る用意をしていると、不意に父が言った。
「ちょうど2人がいるから言っておこう。ここにはもうあまり長く居れない」。

…え?
なんか言い出したな。しかもこのもったいぶった口調。
わがままを注意されたことと関係があるのか?

「それはどうして?それでどうするの?」

「うん。それなんじゃ」

やだやだ。このタイプの管理職慣れした老人の持ってまわった言い方は、なにか魂胆があるときに多い。

「ここはお金がかかり過ぎる。そしてお金がいくらかかっているのか把握できない」

「それなら出納帳をつけてもらおうか。妹が預かってくれている経費の明細も渡して一元化してもらおう。それがいいね!」

父、曖昧に頷いて目を逸らす。

「で?ここにいられないならどうするの?」

「うん。それなんじゃ。行くところを探してもらわにゃあ(もらわなければ)いけん」

なんだと?

「ちょっとそれどういうこと!
探すのは入居する本人でしょう。
私達2人が調べて探して見学して説明聞いてシミュレーションして、賃貸での小規模多機能利用よりもトータルでは収支が安く済むとみて決めたところがダメならもう私達が探すことではありません!
ちょうどいい。こちらからも言っておきます。
次の確定申告は、私達はできません。用紙だけは届けるからお父さんが自分でやってください」

「うん…」
父はおもしろくなさそうに曖昧に言いながら目を逸らす。

確定申告、させる気だったな。
ここを退去して、別のところでわがまま放題をする気だな。
別のところとはどこだ。
もともと、誰かの自宅に引き取ってもらいたいという下心が見え隠れするのを移住の話が出るもっと以前からずっと感じてきた。しかし、要介護認定が出ているうえにこんなわがまま放題な人間2人をうっかり引き取ろうものなら、控えめにみても介護離職の危険がある。控えめに言わず、もっとはっきり言えば人生を乗っ取られる。

「あと10年生きるとして………」
父がしゃべる。
はあ。あと10年ね。
そのとき私は幾つですか?
私達の世代は、60歳から年金支給開始だった両親の世代とは違うのだ。

「今度の確定申告では、雑所得については…」
「それ、私聞いても仕方がないから。次の確定申告はできないって言ったでしょう?できないから聞いても仕方がない。お父さんがすることでしょ」
「…あ? ああ…」
もともと今年の確定申告も、別の予定があって集まったら何もやっていないことがわかって否応なしに手分けして作業したのだった。

この手の、昭和の古狸管理職は、人を使役してやらせたことを自分の指示が良かったかのように言う。自分が教えてやったかのように言う。『わからないからやってください。お願いします』という言葉の代わりに、『任せる』と威張って言う。

嫌われるぞ…。ていうか、嫌われてるぞ。故郷の町でも、ホッとされてるんじゃないだろうか?


もったいぶった言い方に翻弄されない。
先手を打たせない。
なるべく2人以上で対峙する。


それと、どうも気になるんだが、
うちの両親、介護保険制度がどういうものかわかってないんじゃないだろうか?
ホテルの客みたいな気でいるような印象を受ける。


とても気になり、とてもいやだ。
小さい子どもの方が言い聞かせて躾ける余地があるだけよほど良い。


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マンネンロウ
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