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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(05)

第五章
 ~降霊密会譚2~

 アイドルグループのプリンセス・キングスの伊藤聖央いとうせいおうはグループのダンスレッスンに参加していたが、気になることがあるのか、ダンスに切れがない。ターンが半端で完全に回れていない。脚がきちんと上がっていない。バク転は危うく顔から床に落ちそうだった。
 リーダーのハビエル・マサヒコ・ヒガシデは音楽を止めるよう手を挙げ、伊藤のところに行った。

「おい、聖央、どうしたんだ?集中力なさすぎだぞ!」
「ああ、ごめん」

 ごめんじゃないだろ、皆でここまでやって来たのに、今更集中力なくしてどうするんだ?ハビエルにしてみたら、ここまで来て、位置の入替えとか、歌うパートの交代はもう無理だと思っていたので、伊藤がついて来れなくなったのなら、いっそのことデビュー予備軍のサニーズ・ジュニアに戻らせたい気持ちだった。
 再びハビエルは手を挙げ、ダンススタジオの隣にあったレコーディングブースのチーフに向かって休憩を取ることを注げた。

「ごめん、10分休憩、取ります!」

 スピーカーを通じて返答があった。

「はい、了解!水分補給とストレッチね」

 ハビエルは伊藤を連れて、スタジオの隣の衣装室に移り、向かい合う形で座った。

「聖央、どうしたんだ?俺に話てくれよ」
「ハビエル、絶対秘密にしてくれ。少なくとも俺が自分で解決するまではサニーさんにはまだ言わないでくれ」
「時機が来たら自分から話すと思っていいんだな?」
「ああ、時期が来たら」
「俺には?」
「聞いて欲しい。ホント、他の皆には内緒だぞ」
「もちろん」

 伊藤とハビエルは養成所と呼ばれる小学校低学年のダンス教室時代から一緒にサニーズでやってきた。だからこそ不調にはすぐに気が付くし、互いに話しやすい存在だった。

「俺、昨日、自分の部屋で寝ていたんだけど、ふと気が付いたらキリスト教の修道女みたいな恰好をした若い女性と教会の部屋みたいなところでセックスしていたんだ」
「はぁ?夢か、それ?」
「夢だと思いたいんだけど、妙に生々しくて、体のあちこち痛いし、疲れているし」
「性欲が溜まっているんじゃなくて?」
「それなら手で出せばいいじゃん。もう何と言えばいいか分からないんだけど、初めはその女が俺の上で腰を振っていて、好きなように動いていて、何度もイってて」
「おいおい」
「俺も何度もイってるんだよ、その場面では。それで次にそいつはベッドに横になって足を広げたんだけど、両手でアソコを広げて『入れて』って言うんだよ」
「なんだそれ?お前は抵抗できないのか?」
「夢の中にいるからなのか、自分の意志じゃないようで、そのまま前に進んで俺はその女にペニスを突っ込んで合体し、リズミカルに腰を振ってるんだ。で、その女、何度も何度もイくし、俺の背中に爪を立てて俺はイテテって叫んだけどやめてくれなくて、というか俺自身、腰を振るのをやめられないんだ」

 ハビエルは眉を寄せて状況を理解しようとしていたが、今一つ実感できないせいか、最終的には、全部、お前の夢だろ?と言いたかった。

「それで終わりか?」
「それが、次にその女、手足をベッドについて、ケツを俺に突き出して、振るんだよ。『入れろ』ってことで、また俺は前進してペニスを突っ込んで腰を振っているんだ。俺の意思じゃないよ、絶対。お前だって俺がモデルの高槻たかつき沙菜絵さなえと真面目に付き合っているのを知ってるだろ?」
「ああ、お前が真面目に付き合っているのは知っている。そうなるとその夢」
「夢じゃないって!本当に体が疲れているし、腰だって痛いんだ」
「分かった。そうなるとその行動は、お前が寮を抜け出して隣の教会の修道女を襲ったってことか?」

 サニーズ事務所には、デビュー前後の有望株は会社敷地内の寮で共同生活をする規則があった。チームワークを育成する目的で、創業者のサニー・多摩川が定めた厳しいルールの一つだった。
 門限も厳しく、レッスンのスケジュールは分刻み、規則に違反したらデビューは取り消し、場合によってはジュニアに降格され、二度とメディアに出るチャンスがなくなる。違反した者は過去にいて、デビューを棒に振って、そのまま辞めていくことになった。
 その代わり、創業者が決めた幾つもある厳しいルールを守り、ダンスと歌唱のトレーニングをクリアしてデビューすれば、日本中の若い女性の注目を集める存在になれた。

「いや、俺は寮を出ていない。今朝、下駄箱エリアを見たら、靴はそのままだったし、近くには、なんて呼ばれているか分からないけど、修道女がいる教会もないよ」
「じゃあなんだ、夢の中で若い修道女を抱いて、散々出して、それで疲れたと言いたいのか?」
「それが、俺にも分からないんだ。寮は出ていない、服もそのままだったのに、その女性の感覚がペニスにまとわりついていて、なんか気持ち悪いんだよ」

 伊藤聖央はその時間、自分の部屋で寝ていた。だからこそルキフェルはその魂を簡単に肉体から抜き取り、その晩の請願者セイラ・へレス・ユリカイア=ゆり子のもとに届けられたのだ。
 そして、ゆり子が望むように彼を動かし、満足するようにさせた。
 実際には2時間近くゆり子は聖央を放さず、自分が疲れ切って起き上がれなくなるくらい自分をイかせ続けた。ここまでくると、いくら性欲と体力のある若い男性でも、一種の拷問になっていただろう。
 ゆり子は十数回、いやもっとたくさん達していたが、同じ2時間のうちに少なくとも伊藤(の霊)も8回は達していた。
 その行為のすべてを隣の部屋で聞いていた降霊会の残りの8人は呆れるやら驚くやら、部屋から出てきたゆり子を今までと違う目で見ざるを得なくなった。

「で、お前はその女と何回したというんだ?」
「騎乗位で1回、座位で1回、正常位で3、4回、バックで多分2、3回出した」
「うぉ、あの超激しかったと言われている遠藤立彦・タッチ大先輩でも一晩に6回だったらしいぞ」
「おい、そういう話じゃなくて、またそうなるんじゃないかと怖くて眠れないんだよ。だから集中力を切らしているし、疲れが取れないんだ」
「薬、飲むか?」
「効くのか?」
康平こうへいはホントにすぐに寝落ちするよ」
「分かった、飲んでみる」
「あぁ、後でサニーさんに相談して、ジェニーさん経由で病院からもらっておくよ」

 ジェニーというのは創業者サニーの娘で実質的にアイドル部門を統括している。ジェニーの夫で娘婿のトミーが俳優部門を統括していて、今のところはアイドル部門がサニーズ事務所の収益の柱だが、トミーは俳優部門をもう一つの柱に育てたいと考えていた。特にアイドルを卒業する予定のメンバーを演技学校に入れて、連ドラ、朝ドラ、最終的には大河ドラマの主役が取れるようにしたいと思っていた。
 今ジェニーが一番力を入れているのは『プリンセス・キングス』という7人組で、グループで行動する時以外はメンバーそれぞれに担当曜日を持たせ、その曜日にテレビやラジオに出して、ファンに覚えてもらおうとしていた。
 リーダー・ハビエルは日曜日、キレキレのダンスをいつも披露する伊藤は木曜日が担当だった。昼のワイドショーや夜のバラエティにでて、珍回答することもあれば、しっかりした渋いナレーションを披露したり、ストレッチ講座の講師をしたりと静かに若い女性だけでなく、母親世代にも好感を持たれていた。親の世代が知っていて安心していれば、娘たちがコンサートやイベントに参加しやすくなる効果もあった。
 因みに康平は火曜日担当で、家電とかに詳しく便利家具の番組に出たりしていた。

 ゆり子は伊藤の端正なマスクと正確無比なダンスが好きだった。韓国アイドルに負けないダンスは、彼の体幹がしっかりしているから可能なのだと思っていた。そして、ゆり子は伊藤に力強い安定した腰遣いでエクスタシーに導いて欲しかったらしい。

 マサミはじめ、ユリたちも降霊会に参加したメンバーが望むことによってどのような影響が出るかは一応分かっていた。だから死人を呼び出して話す分には影響がほとんどないと思っていたが、帆波ほなみが生きている人の霊、しかも赤の他人を降霊させたいと言い出した時は文献を隅々まで読み直した。
 生きている人間は夢の中の行動と認識すると書かれているし、寝ている時に霊だけを連れてくるので、連れてこられた本人も外出したとは思わないということだった。
 マサミたちは大丈夫だろうと判断して帆波の願いを聞いたから、梨花もゆり子も憧れの人を呼び出した。女子高生の考えそうなことだと理解は得られた。
 しかし、まさか優子と未希が身近な人を呼び出すと言い出した時は戸惑い、優子が叔父の霊を望んだ時、黒い欲望の存在を知り、未希が父親を呼びたいと言った時はさすがに未希本人と優子以外は大きな違和感を感じたし、その後の未希の行動にはかん口令を敷くしかなかった。

「どうして皆は自分の好きな人(の霊)を呼んだのに、私はダメなの?優子だって親戚の伯父さんだったじゃない!」
「そうだけど、実際の社会では」
「優子だってお母さんの弟さんだから血が繋がっていたよね?実際の社会ではできないから私は皆に私の願いを理解してもらいたいの」

 このままでは朝まで議論が続き、全員で未希の願いを時間切れに追い込んだと思われるのも後々問題となると考えて、中心メンバー4人が西の部屋に入って議論をまとめることにした。
 マサミとユリは実際にエッチするわけじゃないしと主張し、相手は夢の中の出来事として忘れてしまうから大丈夫だろうと無理やりスミレとサクラを納得させて、未希の願いに対応することにした。

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八反満
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