ラデュレ(06)
アフタヌーンティーをすることになった浅間唯は明るく、快活という感じの女性だった。冷静に見ると計算して明るく振舞う「あざとい」系と思われたが、車に詳しいことが楽しい時間を期待させた。
浅間はデートのセッティングに動いた。ミユミユのハンドバッグから携帯電話を取り出し、カレンダーのアプリを開いて、人差指で画面をスクロールさせた。
浅間「来月5日の土曜日はいかがですか?
レースのない日です。
一応、普通にお湯に浸かって大丈夫な日でもあります」
<ほお、そうやって生理じゃないとアピールするんだ。じゃあ、部屋で過ごすのはどうだろう?>
武田「お湯に浸かってお昼を食べて。
少しゆっくりしてから戻ってきますか?」
浅間「そうですね、ゆっくりしたいです。
その際、いただけたりしますか?」
<いただく?お手当か?パパ活か、それとも援助交際か?ま、結局は、そういうことだよね>
武田「お土産を買うお小遣いをさしあげてもいいですよ。
しかし、時間を買い取ってほしいのなら、お断りします。
別のことに私も時間を使いたいので」
武田は金には困っていない。女性にも困っていない。やりたいことはたくさんあるし、外に出ている時に狙われたくない。狙われている事情は、この浅間には全く関係ないが…。
浅間「正直に話すと、スポンサーを探しています。
ヨーコから武田さんのことを聞きました。
一緒にいて楽しいし、車、食事などの趣味がいい。
変なことを求めたりしないし、とも聞きました」
武田「熱海に知人がリゾートマンションを持っています。
その一室をプレイルームに改造していまして」
浅間は乗り出して、熱海のリゾートマンションを想像し、次にプレイルームという言葉が耳に引っかかるのを感じた。
武田「そのプレイルームは屋根が補強してあります。
浅間さんを天井から吊るすことも可能です。
半日ほどおもちゃを入れたままにしたら面白そうです。
これは変なことに含まれますか?」
浅間はククッと笑って見せたものの、目が笑っていない状態だった。
<まぢ、そんなことする?というか、このレベルのお金ある人たちって秘密クラブでいろいろやってるんだろうから、この人、本気かも…>
浅間「ご褒美ってどれくらいですか?
そのぉ、天井からってやったことないんですが」
武田「浅間さん」
浅間「はい」
武田「目が笑ってないよ」
<当たり前でしょ!誰が好き好んで天井から吊るされて、オモチャ突っ込まれるかっつうの!>
武田「浅間さんみたいな普通の女の子が踏み込んじゃいけない世界もあるから、絶対無理をしてはいけないと思います。
他の男性がどんなことをスポンサーの条件にしているのか、私は興味がありません。
欲を満たすだけなら、お金で呼べる女性は幾らでもいますし、お金がなくても来てくれる女性もいくらでもいます。
性を楽しむ者もいれば、仕事として割り切って時間を売っている女性もいます」
浅間「私がどれになりたいのか、決めろということですか?」
武田はプレートから料理を取り、浅間の口元まで持って行った。浅間はゆっくりと料理を口に含み、自分の手で武田の手を外し、人差し指で残りを口に押し込んだ。
武田「焦らずにゆっくり考えてください」
浅間「嘘なんでしょ、今の?」
武田「私は嘘をつきません。
浅間さんが焦って選択を誤る可能性があると思いましたので。
ゆっくりじっくり考えてください」
<え、もしかして、アタシ、断られるの?このアタシが、断られる?有り得ない!>