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月と六文銭・第十四章(40)
田口静香の話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
田口のカバー・高島都は、ターゲットであるネイサン・ウェインスタインとの'夜のデート'に向かった。彼が用意したメニューは鉄板焼きだったが…
~ファラデーの揺り籠~(40)
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エントランスにあるシャネルのバイカラーのパンプスを履いて、姿見で全身を確認した。昨日と色違いというか色の組み合わせが逆のワンピースの裾を引っ張って全身のラインを整えた。
セリーヌの大き目のハンドバッグの中には、化粧パレット、リップ、携帯電話、電磁波測定器、スタンガン、メリケンサック、USBドライブ、そして、'プロテクション'、しかも新品ひと箱、が入っている。
エレベーターは誰も途中で乗ってこなかったためか、思いのほか早くレストランフロアに着いた。ウェインスタインは昨日、バーで待っていると言っていた。バーで待ち合わせて、反対側のレストランで食事をするつもりなのか。取り敢えずバーに行ってみよう。
「ミヤコ、こんばんは!」
ウェインスタインはスツールから立ってきて、バーの入り口で都を迎えた。
「ネイサン、こんばんは!」
「今夜は鉄板焼きです」
二人はそのまま連れ立って、バーと反対側のレストランに入って行き、中央のカウンター席に案内された。
「わあ、楽しみ!」
「肉だと一般的だから今夜は魚だよ」
サーバーが近づいて大きなスレートに載せてある魚を見せてくれた。
「今夜のお魚は、真鯛、鮭のハラミ、サーモン、車海老です」
色が良く、張りのある魚たち。厳密に言えば、車海老は魚じゃないが、今日のメインの一つ。
サーバーが手で鉄板の横に置いてあるバットを指して、説明を続けた。
「野菜はこちらを合わせます」
カボチャ、ヤングコーン、エノキ茸、豆腐、葉物が乗っていた。
「お飲み物はどうされますか?」
サーバーに聞かれ、都はウェインスタインに向かって指を一本上げて答えた。
「一杯だけなら大丈夫だけど、ネイサンはどうするの?」
「僕はジンジャーエールにする」
「じゃあ、私も同じものを」
「ジンジャーエールを2つですね」
サーバーは指を二つ上げて、確認した。
「お願いします」
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シェフはターナーで小気味良くカタンカタンと音を立てながら、真鯛を焼いた。ひっくり返したり、丸カバーを乗せて蒸したりして、外はカリッと、中はふんわりな真鯛が出来上がった。
横で車海老を焼いていたが、火が通るに従い、きれいに色が変わり、車輪の様にくるっと丸まっていった。車海老の由来はそこからきたはずだ。これを真ん中から切り開いて火を通し、お皿の中央に配置した。
その海老を台にして、真鯛が置かれ、その周囲にカボチャ、エノキ茸、コーンが登場した。
ハラミはしゃけの切り身らしいが、油がすごい。油を引く必要がなく、自分自身から出てくる油で料理できてしまう。
葉物に火が通され、サーモンと豆腐で紅白のミルフィーユみたいな作品が出来上がった。
それに斜めにナイフを入れて、豆腐とサーモンを一緒に食べて、都は舌鼓を打った。
「美味しい!油もちょうどいいし」
「本当だね」
シェフは色が変わって火が通った車海老を輪切りにして、同じく火の通ったヤングコーンも輪切りにして混ぜ、塩コショウで味付けして、軽く火を通した葉の上に乗せ、玉ねぎを刻んで上に乗せた。これを2セット作って、二人の前に出した。
「巻いて食べてもいいですし、そのまま食べてもいいです。お好きなように召しあがってください」
最初に出た海老は植物油で自然な味に仕上がっていたが、この料理は味付けを変えてある。塩コショウでこんなにも味が変わるのかと驚く二人だった。
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食事が終わり、夜景のキレイな窓辺のテーブルに移った二人は何杯目かのジンジャーエールを楽しんでいた。
都はウェインスタインが酒を飲んでいる姿を見たことがないから、飲まない理由があるのか聞いた。
「ネイサンはお酒、飲まないよね?苦手なの?」
「軍にいた時はビールが多かった。他の酒はほとんど飲んだことがないんだ。ワイン、ウィスキー、日本酒はない。サングリアみたいな果樹酒はたまに飲むけど、本当にたまにです」
「酔うのが好きじゃないの?」
「酒を飲むと頭が痛くなることが多いから好きじゃないんだ。二日酔いみたいのが先に来ちゃうみたいで、集中できなくなるから仕事も進まなくなっちゃう」
「ねぇ、お酒はネイサンのパフォーマンスに影響するの?」
ウェインスタインが質問の意味を取り違えないよう、都は彼の腿に置いてあった彼女の手をズボンの真ん中に進めて、さりげなく摩った。
「酒を飲んでしたことないから、下がるか上がるのか分からないな」
***現在***
「普通パフォーマンスというと性能や成績を指すけど、夜の場合、硬さとか継続時間を指すでしょ?
飲酒後にダメになる=勃たなくなるという男性と、ますます元気になって頑張るという男性といるように思うけど、どれくらいの割合なんですかね?」
「僕の周りは寝ちゃうのが多いな、聞いていると」
「適度がいいってことかな?
私がお相手した男性はたくさん飲まず、1杯、2杯を楽しく飲んでからベッドに連れて行ってくれる人が多かったかな。
全然性能的には問題なく、頑張ってくれた人が多かったです」
武田は田口から聞いた社長や政治家の顔を思い浮かべ、複雑な気持ちになっていた。
「哲也さんの場合、お酒じゃなくて名前や地位に弱いのかな?」
「いや、想像力だと思う」
「どんな?」
「静香がどんな風に悶えているのか、すぐに想像しちゃって」
「あら、妬いてくれるの?」
田口は頭を下げてきて、武田に丁寧なキスをした。
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