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月と六文銭・第四章(6)
武田は、ガールフレンドの三枝のぞみと外でデートした時に見かけた彼女の母のことを思い出していた…
~のぞみの母・弘美~(後編)
6
日焼けしていて健康的で、どちらかというとアウトドア派に見られた小畠弘美は、実はインドアスポーツもとても好きだった。
ベッドの中では受け身となることも多かったが、快感曲線が連山型のため、一度昇り詰めると短時間で次の絶頂まで昇り詰めることができたし、何度も達することができた。
武田にとってこれはとても魅力的で、次の日に授業がない時などは弘美のアパートで前の晩から昼近くまで、どちらかが上に乗って腰を振る行為が続いた。弘美が濡れる限り、或いは武田が元気になる限り、二人は互いに快感を与えようと努力した。
カーテンの間から日が射す頃には、さすがの弘美ももう濡れないし、喉が枯れて声も出ないし、武田も何も出てこない状況になって、二人は眠ってしまうのだった。
しかし、授業があることを忘れない弘美は、15分も休むと、ムクっと起き上がり、台所で玉子とソーセージ、コーンスープを作り、武田の腹に上に馬乗りになって鼻か頬を突っつき、学校に行くわよ、と彼を起こした。
これは武田の授業のあるなしにかかわらず、弘美は自分の授業に合わせて武田に行動させていたもので、武田もそのつもりだった。
7
3回目のデートの時、のぞみは代官山のオープンカフェに行きたいと言って、現地で待ち合わせをした。ちょうどのぞみの父母も代官山を通るというので、のぞみは送ってもらうことにして、緩やかなカーブにあるカフェの前で降ろしてもらっていた。
その10分ほど前に武田は道の反対側に車を停め、カフェを眺め、その前を通る車を見ていた。メルセデス、BMW、アウディ、VW、フェラーリにポルシェ。まるで外車の見本市のようだった。
どこかの商社の部長をしているというのぞみの父がトヨタのウィンダムというセダンに乗っていると聞いていた。生垣で構成された道との境が切れている個所に停まったウィンダムから母親と娘らしき二人が降りて、話し始めていた。
お、のぞみだ、と思ったが、隣の女性を見て、一瞬目を疑った。いや、目をぱちくりしてしまった。あだ名・バターケー・小畠弘美そっくりだった。年齢的にはのぞみの母親であってもおかしくはないが、まさか、本当にのぞみの母親なのか?
8
武田は弘美が別れた後にどうしていたか、一生懸命思い出そうとした。
たしか、別れた後に勤めていた商社の同僚と結婚したはずだ。相手の名前が思い出せない。同級生の誰かに聞いたら分かるだろうけど、当時は今と違ってSNSなどというものがなかったから、きちんと確認していなかった。
弘美から"結婚しましたハガキ"をもらっていないし、結婚後に年賀状をもらったこともなかった。ましてや"子供が生まれましたハガキ"も見た記憶がない。
仮に弘美の娘だとしても、のぞみは結婚後に生まれた子だから自分とは関係がないだろう、と思った。
いや、そう自分を納得させた。万に一つのぞみが自分と弘美の娘だった場合、どんな悲劇が待っているのか、想像したくなかった。
9
別の機会にのぞみに聞いたところ、父母は既に婚約していて、ラブラブだった父母は、若干"フライング"したから自分は結婚後数か月で生まれたみたい、と恥ずかしそうに言ったことがあった。
「父母は社会人になっていたので、学生結婚みたいなことではなかったし、皆に祝福されたし、その後弟が普通に生まれていることから、誰も気にしたことがないけど、よく考えたら、父母はフライングしたんだね」
武田はのぞみの誕生日から逆算して、最後に弘美と関係を持った時期と一致していたことを知ったが、今更どうにも変えられるものではない。そう思うしかなかった。
10
「因みに、母の実家の先祖も哲也さんと同じで、戦国時代の武将に繋がっているらしいよ」
のぞみがそう説明したことがあった。武田がのぞみに自分の苗字の由来を聞かれた時に、苗字については、本家ではないが、甲州武田氏の末裔だということを話していた。
その時に、のぞみの母の名前、旧姓を含めた氏名を聞いておくべきだったと後悔したが、聞いたからと言って何か変わるわけでもないし、事実を確認した結果、のぞみと別れることとなった場合、自分は諦められない以上に、のぞみが納得しないだろうと思った。
「運命のいたずらで、昔付き合っていた女性の娘と今は付き合っています」
と
「運命のいたずらで実の娘と…」
とでは、社会的インパクトが違い過ぎるし、自分ものぞみも精神的に持たないのではないかと心配だった。
それならば、事実を確認せず、静かに別れた方がいいのだろうけど、自分は本当にのぞみが好きだったし、のぞみも理由を言わなかったら、別れることに納得しないことが容易に予想できた。
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