月と六文銭・第十四章(22)
田口静香の話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
ビジネスウーマン・高島都は、いよいよパイザーのネイサン・ウェインスタインにハニートラップを仕掛けるが、失敗したら命の保証がない作戦の開始でもあった。
~ファラデーの揺り籠~(22)
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ネイサンは立ち上がり、都に手を出して、立ち上がるのに手を添えた。
「そろそろ行きましょうか?」
「はい。あ、ごめんね、もう一度確認しておきたいんだけど、私、絶対妊娠したら困るから、必ずプロテクションをお願いね。準備はしている?なければ、駅に繋がっている地下のコンビニに行ってくださる?」
ウェインスタインの誠意の確認になるし、一応自分もコンドームをハンドバッグの中に用意しているが、どうしても相手が渋ったら「じゃあ、あたしのを使いましょ」との最終防衛線だった。いまだに「コンドームを持っていないから生でもいいか?」と聞いてくるクズ男はいくらでもいて、そんなクズ男はセックス以前にパンツを脱ぐ資格も女性を口説いてくる資格すらないと思っていた。
「それは分かっています。日本製は性能が世界一です。昼間のうちにドラッグストアで買ってきて、準備してあります」
「ありがとう。それなら私も安心して楽しめるわ」
都は恥ずかしそうにネイサンの手を握り、少し頭を寄せ、エレベーターに向かって歩いた。自分の手が熱くなっているのは分かっている。
「ミヤコはドライブに行きたいですか?」
「今夜はゆっくりしたいから、パスしてもいいかしら?」
「もちろん大丈夫ですよ。僕の部屋でいいですか?」
都はここで一瞬、今夜の展開を再シミュレートした。私の部屋なら絶対に私が有利、何かあったら対処しやすい。部屋内の動きが全部録画されるし。気になるのは恥ずかしい姿を晒すことになること。後で見た時、耐えがたいだろう。
逆にウェインスタインの部屋に行けば、資料などにアクセスできる可能性があるが、薬物入りの飲み物を出されたり、それこそ隠し撮りや拘束・凌辱される可能性がないとは言えない。
「その方がいいかな。知人に見られることはないと思うけど、私の部屋に男性を招き入れているのは良くない気がして」
「そうですか?」
そう思ったものの、都は再度考えた。ペーパーで何か持ち歩くことはなくて、多分携帯端末に入っているだろう。それなら今も彼は手に持っているし、私の部屋にも持って来るだろう。一緒にシャワーに入ろうと言われたら見るチャンスはないかもしれないが。
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