月と六文銭・第二十一章(18)
アムネシアの記憶
記憶とは過去の経験や取り入れた情報を一度脳内の貯蔵庫に保管し、のちにそれを思い出す機能のこと。
武田は複雑かつ高度な計算を頭の中だけで計算できた。スーパーコンピューター並みの計算力ではあったが、それを実現するには記憶領域をある程度犠牲にしていた。
<前回までのあらすじ>
武田は新しいアサインメント「冷蔵庫作戦」に取り組むため、青森県に本拠を置く地方銀行・津軽銀行本店への訪問を決定した。津軽銀行がミーティングを快く受けてくれたおかげで武田は自分の隠された仕事の日程を固められた。
憧れの武田の資料を準備し、無事に送り出したのものの、松沼和香子は体の疼きが収まらず、青森まで追いかけたい衝動に駆られていた。
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松沼の体がブルッと震えた。体の奥から快楽に関係した液体が出口に到達して、外に出てきたのを松沼ははっきり感じ取った。
<本当はこの体が疼いていて、あの人のアレがここに欲しいなんて誰にも言えないわ>
武田を見ると体が火照り、パパ活を控えている今、性欲を持てあまりしている面もあり、忙しさなどはどうでもよく、体の疼きを静めてほしいというダークな欲求に心も体も蝕まれていた。
<独身だから、問題ないはずよね?
彼と結ばれても大丈夫よね?
いや、「結ばれる」なんてロマンチックな言葉は似合わないわ。
ただ、しっかり私に入れて、私の体が折れるほど抱き締めて、奥の奥にたくさん出してほしい。
アナタが出した瞬間は私には分かるわ。
そして、私、アナタと一緒に達すると思うわ。
「達する」なんて、またロマンチックな言葉を使ってしまったわ。
イくのよ、アナタと一緒にイくわ>
松沼はハッとして、椅子から立ち上がった。
<あの人、よく忘れ物をするから、部屋を見ておいた方がいいわね。
でも、その前にお手洗いに寄らなくちゃ。
また汚しちゃってるはず>
松沼は、ちょっと変な歩き方をしながら、女子トイレに寄った。生理用パースには替えのパンティーを一つしか入れてなかったが、生理用ショーツはまだ使ってなかったので、それに履き替えた。生理じゃない時に使うのは変な感じだったが、シミの付いたパンティーをこの後も履いて仕事を続けるよりはマシだった。
松沼は一旦総務部に戻り、総務課長に声を掛けた。
「課長、念の為、武田部長の部屋、確認します。
よく忘れ物をするので」
「あぁ、お願い」
ピーーーーー
電子ロック式の鍵箱は課長が開封コードを入れて開け、松沼が武田の部屋の鍵を取った。
<また、何か忘れてそう>
松沼は内階段を上がり始めた。そのまま武田の部屋に進んだが、扉の前に立った瞬間、「あ!」と声が出た。
<またケイタイを忘れている!>
武田は机の上に業務用のケイタイ、会社が支給したアイホン、を置きっぱなしにしたまま外出してしまったのだ。
武田への業務用の電話は全て彼女のデスクに転送されるようになっていたため、外部からの照会電話は問題なかった。
<時々会議室に忘れ物をすることがあったけど、出張に行くのに、会社のケイタイを忘れるなんて!メモ帳や万年筆だったらそのままにするところだけど、ケイタイは困るわね>
松沼は急いで個室の鍵を開け、ケイタイを取って自席に戻り、メールで武田のノートPCと個人携帯にメールを入れた。
すぐに松沼のデスクの電話が鳴った。
「松沼さん、ごめんなさい!
またやっちゃいましたね」
「はい、何度目でしょう?
携帯電話は総務で保管しておきます」
「ありがとう」
「携帯電話がなくて、何か困りませんか?」
「2、30分に一回、ショート・メッセージなどが届いていないかだけ見ておいてもらえたら助かります。
5時を過ぎたら不要です。
机の引き出しかどこかに保管してください。
月曜朝、ピックアップします。」
「承知しました。
気を付けてください、ご出張」
「ありがとうございます!」
<どこか抜けているのが、ある意味、可愛い。会議室にメモ帳や万年筆をよく忘れるし、傘をよくなくすという。とても億を稼ぐ超絶ファンドマネージャーとは思えないポカを繰り返す武田さん…>
松沼は自分の女性の部分がジュンと潤い、その一部が外に漏れたようで、右のこめかみを汗が流れるのを感じた。
<スーパーモデルと付き合っているのだから、カリスマ的な魅力があるはずなのに、私には本当にフレンドリー。彼の秘密を知りたい、本当に彼のこと、いろいろ知りたいわ>
松沼はデスクに左下に置いてあったバッグから小さなポーチを出して、女子トイレに向かった。到着するまでに多くの液体が漏れ出たと思い、トイレの個室に入るなり、すぐに下着を脱ぎ、便座に座った。
<え、すごい>
自分の秘部から糸を引いている状態の下着を急いで袋に入れ、目の周りが火照るのを感じながら、自然と手が股間に伸びていった。
<誰もいないよね?>
松沼は耳を澄ませて、女子トイレに誰もいないことを確認してから、人差指と薬指で自分の女性の部分を広げ、中指で潤っている真珠を撫で始めた。
<あん、もっと強く、早く、触って!
てつやぁ、指入れて!
あ~、感じる部分、そう、私のそこ、そこを触って!>
松沼は中指に加えて、薬指も添えて、くいくいと出し入れを繰り返した。スピードが上がり、便座から腰が浮き始めた。
<うぅ、ほしい~!あぁ~ん、イきたい、イきたい、イきたい!
あう、イクッ、イクッ、イクッ、イック~>
暫くなかった快感に全身を震わせた松沼は、短距離を走った後のような息遣いで豊かで大きな胸を上下させた。
<あ~、てつやのアレ、気持ちい~>
ゆっくり指を抜いて、その二本の指についている白い濁った粘り気のある液体をじっと見つめた。
<いやだわ、かなりご無沙汰だったけど、こんなに指に着いちゃった>
松沼は男性との行為の時にコンドームの外側に自分の体液がついて、真っ白くなっていることが度々あったの知っている。それを見て、自分がいかにたくさんの分泌物を出しているのか、驚いたり、呆れたり、愕然としたりするのだった。
そして、その時の相手から「スケベな女だな」と思われたり、「好きモノなんだね」とか「うわ、相当スケベな女」という目線で見られたりして、ちょっと複雑な気持ちになったのは一度や二度ではなかった。
今、自分の二本の指についている白濁液からは湯気が立っているようにも見えるくらい自分の膣内が熱かったし、くちゅくちゅと指を出し入れする音が個室内に響くくらい膣内は潤っていた、いや、溢れ出していた。
<会社のトイレでこんなことをしちゃうなんて、私、よっぽどしたい、というかあの人のが欲しいのね>
松沼は武田のスケジュールをすべて把握していた。少なくともスケジューラーに入っている公式のものは。
<午後、青森の津軽銀行でミーティングを行い、夜は多分少しお付き合いの飲み会に参加してから青森セントラルホテルの自分の部屋に戻るはず。
翌日は午後の新幹線を取ってあるから午前中は美術館か何かに行かれる可能性がある。
今から追いかけたら、夕食が終わる頃に追いつけるかも。私は新幹線の中で何か食べたら十分だし>
ここで松沼はハタと気が付いた。パートナーはどうしているのだろう?例の東欧のスーパーモデルは、日本でのファッションショーか何かの仕事で来ていたはずだから、もういないはず。公私混同しない人だからだれかを連れて行っている可能性は少ない。もちろん誰か現地で待ち合わせをしていないとは言い切れないが。
<現地で電話してみて、誰もないと分かったら「私、来ています」と言う。誰かと一緒だったら、何も言わない。
いや、でも、誰もいないけど、拒否されたら、別の部屋に一人で泊まることになって、惨めな思いをするよね?
そもそも、そういう興味の対象にもなっていないのに、急に押しかけたらびっくりされるよね?>
松沼はだんだん女陰が乾いていくのを感じた。パースからウェットティッシュを取り出して、丁寧に自分を拭いた。トイレに流せるタイプなのを幸いに、証拠隠滅は完璧だった。
<このまま涼しい顔をしてデスクに戻り、仕事を終え、東京駅に向かう。我ながら恐ろしい計画だ>