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ラデュレ(03)
レースクィーン・板垣陽子の紹介で一緒にアフタヌーンティーをすることになった浅間唯は明るく、快活という感じの女性だった。何も考えていないタイプではないことは分かったので、逆に計算して明るく振舞う「あざとい」系なのかもしれない。
もちろんレースクィーンをしているくらいなので、車に興味がないわけはなく、チームメイトの板垣に「すごい車に乗っている人を知っているよ」と今回紹介してもらって会うことになったのだ。
武田「ポルシェが好きで」
浅間「はい、聞いていますGT2の…」
武田「夜中に一人でグルグル回るための車です」
浅間「C1ですか?」
C1とは首都高環状線を指す。武田の時代は首都高或いは環状線と呼んでいたが、いつの間にかC1と呼ぶ人口が増えた。線が増え、複雑化したり、料金体系が変更されたりしているが、アップ・ダウン、直線、カーブが混ざったコースだった。逆バンクで事故を起こす人が絶えないし、ドブ川区間を走っていて、横滑りし、トンネルの入り口を塞いで大事故の原因を作る者もいた。
武田「大廻もしますし、湾岸を流すこともありますよ」
浅間「今度良かったら」
武田「いいですけど、その時はレーススーツを着てもらいますよ」
浅間「デートなのに、レーススーツですか?
色気が出せないです!」
武田「残念ながら、ポルシェで走るということはスポーツをするのと一緒なので」
浅間「動きやすい恰好をしないといけないのですね!」
浅間はウィンクをして武田の言わんとすることを理解した。
浅間「うちのチームの晴樹、以前よくC1を走っていたと言ってました」
武田「それならゴキブリ・ポルシェを知っているかもしれませんね」
浅間「ゴキブリ?」
武田「私の車は艶消しの黒で光の当たり方によってはゴキブリのような色らしく…。
ネロ・ブラックなのでネロ号と私は呼んでいるのですが」
そこで浅間はハッとした。そして、じっくりと目の前のオジサンを見つめた。
<え、コイツ?コイツが晴樹を負かしたの?まさか>
武田がモテギ・サーキットで足回りの調整をしていた時にやたらと突っかかってくる青いポルシェGT3がいたが、するりとかわして、さらりと引き離していったことがあった。
浅間はパドックにいたのだが、ヘルメットに全身レーシングスーツのドライバーが誰だか見えなかった。
しかし、戻ってきた晴樹が「くそっ、またゴキブリに負けた!なんなんだアイツ」とかなりがっかりしていた。首都高でちょっと速いくらいではサーキットでは通用しないというのがプロの認識だったが、首都高でもサーキットでもゴキブリ・ポルシェに負けて相当悔しそうだった。
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